日本とは社会の習慣やシステムが異なり、また言葉の違うオーストラリア。そこで起こった法的トラブル。パースの弁護士事務所の弁護士やプラクティス・マネージャーが毎月、ケーススタディで問題解決のアドバイスを提供する。
ケーススタディ 07
特別編「拘束の代償」
「当コーナーにてアドバイスを提供している弁護士事務所が請け負った裁判について、今回はご紹介します。」
「最初に日本のニュースで、強姦冤罪で無罪を勝ち取った男性が、国と大阪府を相手取り国家賠償1億4千万円を求めた訴訟が棄却されたといった報道がありました。この男性は6年間の拘束の代償として2千8百万円の刑事補償を受けていたそうです。
また、日本で1997年3月に発生した「東電OL殺人事件」についても、殺人冤罪で無罪のネパール人男性の受け取った国からの補償額は、当時の補償額上限の約6千8百万円(1日当たり1万2千5百円)でした。それが、無実の殺人犯として苦しめられ、拘束された15年間分の対価です。ネパールの平均年収のおよそ千倍以上に相当する大金だったそうですが、男性は帰国後、自国にて裕福で幸せな人生を送っているらしいです。
実は、当弁護士事務所の外国籍のクライアント(20代女性)が、去年2018年の年末に予定されていた20日間の裁判の3日目で、警察が起訴を取り下げ、20ヶ月間の拘留の末に釈放され、無事に自国へ辿り着きました。このクライアントの場合は、観光ビザでオーストラリアに入国。ある事件で嫌疑をかけられ、初めから一貫して無実を主張していましたが、警察と連動していた移民局は嫌疑の内容から渡航目的の誤魔化しと判断。彼女の観光ビザはキャンセルされ、裁判の判決が出るまで移民収容所に送られしてまったのです。
濡れ衣を着せられたのにも拘らず、その彼女は結局、20ヶ月間も刑務所のような移民収容所で過ごさなければならなかったのです。嫌疑自体はニュースにもならない程度のものでした。裁判には、当弁護士事務所からの弁護士と犯罪専門の法廷弁護人が依頼人より雇われましたが、20日間の全行程を経ずして裁判3日目で、その彼女は夢にまで見た自国への帰国が決まったのでした。
裁判は大勝利ではあったものの、裁判や弁護費用、通訳にかかった費用など、20ヶ月という時間も長かったですが、自分の無実を証明するためにかなりの金額も費やしました。ただ警察が起訴を取りやめても、西オーストラリア州からは謝罪や補償など一切ありません。基本的に刑事裁判の場合、民事裁判のように裁判に勝った側が負けた側に弁護費用を請求することもできません。彼女は裁判の後、移民収容所から直接空港へ送られ、自国へ戻る飛行機に乗りました。身の潔白は証明されたものの、自由を得たわけではありません。国外退去にちかい扱いでオーストラリアを後にしました。彼女自身、もう2度とオーストラリアに戻りたくないと思ったでしょうが、万が一次回があったとしても、オーストラリアの移民局も彼女をそう簡単に入れてはくれないでしょう。有罪にならなかったのに。
前出の「強姦冤罪」や「東電OL殺人事件」は、服役後の冤罪確定なので、今回のこの女性クライアントのケースとは性質や拘留された施設が国だったり期間だったりも違うので、一概に比較することができないのは事実です。ただ、何らかの理由で事件に巻き込まれて拘束されても、裁判で無罪が確定するまでの道程は予想以上に長くかかってしまうということは否めないでしょう」
私たちがお応えします。
パースの弁護士事務所『Equitas Lawyers』の弁護士や弁護士事務所プラクティス・マネージャー、『Equitas Migration』の移民法コンサルタント。
『Equitas Lawyers』『Equitas Migration』
各分野の専門の弁護士が所属するパースの弁護士事務所。日本人が通訳として窓口になり、メールや電話も日本語で対応してくれる。また、ビザに関してもコンサルタントが日本語で対応可。
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