すると、どうだろう。冒頭で書いたように、彼は、そのパンと饅頭の全部を、すぐ横にいた物乞いのおじさんにあげてしまったのだ。それも全部。彼の両手は、ほんの一瞬、物でいっぱいになった。 しかし、彼は、もっと必要とする人がいれば、それを潔く譲るという行動に出たのだ。それは、「あげる」という行為ではなく「分かち合う」という態度だった。 唖然とする私に、彼はいつものように屈託のない笑顔を返してくる。そして、コクンとうなずき私の元から走り去っていく。遠ざかる彼は2、3度後ろを振り返っていく。そんな小さな彼の後ろ姿がずんずんと大きく見えていった。