これは10年前、初めての取材地エルサルバドルで記録した日記の一部である。撮影取材の現場に立つと、常に日常生活の現実を目の前に突きつけられる。そこでは頭の中で考えただけの「思考」や「言葉」の世界は、目の前の出来事に膝を折るしかない。現実の生活には、匂いも、汗も、筋肉疲労もあるのだ。
 カメラを持って現場に立つ。立っただけで満足なのか。現場に立ったという証拠的な写真を撮るだけに終始するのか。現在の「消費市場経済」優先の社会で、一般のメディアは、いかに優れた写真であっても、消費される「モノ」の一つとして扱われる。ある程度、その流れに巻き込まれながらも、抵抗する強かさも必要かもしれない。

 フィルムの入ったオートのカメラはシャッターを切れば、よっぽどの失敗をしない限り、そこそこの写真を撮ることができるだろう。しかし、なんでカメラは写るのだろうか。そんな疑問を持つ人はあまりいない。まさに前回触れた、「ニュートン逸話」に通じることである。
 なぜ、考える必要があるのか。それは、現実を見る・知ることのヒントがそこにあるからだ。

   


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