オーストラリアで生活することで日本では予期しなかったケガをしたり、病気になったりすることもありますよね。もちろん、そんな時は病院に駆け込むこともあるかと思いますが、英語の診察やカウンセリングで言葉の壁を感じたことのある方も少なくないはずです。このコーナーでは、パース在住の「なやみちゃん」の病気やけがを医師の診察の前に専門家が日本語でアドバイスを行います。

私が日本語でご案内致します。 日本語医療センター/マネージャー 千綿 真美さん 〈日本語医療センター〉日本人通訳が常勤し、医師の診察を受けられる。また、海外旅行傷害保険でキャッシュレス・サービスも提供している。

なやみちゃん、今月は“どうなさいましたか？”具合が悪そうですが、お医者さんの診察の前にお話を聞きしましょう。

日本にいることからたばこをやめようと思っていましたが、できなくて。オーストラリアに来てその思いは変わらいのですが、やめられない。禁煙のための薬はありますか？

禁煙補助薬のことですね。オーストラリアでは一般医（GP）でも、「喫煙は身体に悪いと分かっていても止められない」「何度も禁煙に失敗した」「タバコを止めたい」という相談を受け付けて、チャンティックス（Chantix：成分名バレニクリン〈Varenicline〉）などの禁煙補助薬を処方してくれます。

その薬は禁煙に効果的なんですか？

チャンティックスはニコチンを含まない禁煙補助薬で、脳のニコチン受容体がニコチンと結合できなくなるように作用して、また喫煙の際のドーパミン放出を抑えて満足感を得にくくさせることで、タバコが吸いたくなくなるように仕向けるものです。薬の服用は最低12週間は続けることが勧められています。副作用として軽い吐き気がよくみられますが、稀に行動の変化、うつ症状、自殺企図などの深刻な副作用がでると報告されています。

そうですか。今はまだ症状が出ていませんが、喫煙が原因で病気になりたくないと周りをみていて最近思い始めて…。

喫煙は、がんだけでなく狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳卒中などの循環器系疾患、また肺炎や喘息などの呼吸器系疾患の原因や要因となります。日本でもオーストラリアでも、肺がんによる死亡率は現在も非常に高く、特に女性の喫煙が急速に進んだ80年代の影響で、女性の肺がんによる死亡率は今や他のガンに比べてとても高くなっています。

それと、オーストラリアに来て、喫煙者が日本に比べて少ないような気がして、良いことだと思ったのもやめようと考えたきっかけでした。

喫煙率はオーストラリアでも日本でも年々減少していますが、日本の喫煙率は比較的まだ高いようですね。Australian Institute of Health and Welfareの発表によると、オーストラリア国内では1991年の調査で喫煙率が24%だったのに対して、2016年では12.8%と25年で半減しています。それに比べ、厚生労働省国民栄養調査による日本の喫煙率は2018年の調査で男性29.4%、女性が7.2%、トータルで17.7%と、男性だけみればオーストラリアの倍以上の喫煙率となっています。

正直、できれば薬の力に頼りたくはないのですが…。

まず、もし周りの人からいっしょにたばこを吸うことを勧められたら、“NO!”と禁煙を宣言し、理解と協力をお願いしましょう。そして、禁煙補助薬は決して魔法の薬ではありません。喫煙をするには薬だけに頼らず、まずは自分がどんな時にタバコを吸っているか考えて、それに代わるものを見つけましょう。食後に吸いたくなる人は「ガムを噛む」「飴をなめる」、お酒を飲むと吸いたくなる人は「おつまみを食べる」「お酒を飲まない」、また普段からも「タバコを吸う場所に近づかない」など、自助努力をするよう心がけましょう。では、お医者さんの診断を受けて、更にアドバイスをもらいましょう。