Aリーグ2024/25シーズンも中盤に差し掛かる中、1月16日に移籍ウィンドウがオープンした。そして同日、Perth GloryはJリーグの湘南ベルマーレからDF岡本拓也、京都サンガF.C.からDF三竿雄斗の両選手を今シーズン終了までの契約で獲得したことを発表した。この日本人2選手の入団で、Aリーグでプレーする日本人は全10選手となった。
その10選手の中でも長きにわたり日本代表に召集され、FIFA W杯に3度、五輪に2度も名を残したAuckland FCの背番号2番、酒井宏樹はAリーグの中でもハイプロファイル選手の一人だ。Auckland FCは、ニュージーランドのオークランドを本拠地とする、今シーズンからAリーグに新規参入したチームだが、酒井はそのチームの初代キャプテンでもある。そのAuckland FC、そして酒井にとってPerth Gloryとの初対戦(Gloryのホームゲーム)となった1月11日のRound13で、前半45分に2度の衝撃がスタジアムを走った。10選手の一人、Gloryの背番号11番の青山景昌はこの日、ベンチ外だった。
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【試合結果】
Isuzu UTE Aリーグ2024/25シーズン(Round 13)
Perth Glory 1 – 0 Auckland FC (前半:1 – 0)
得点:Perth Glory(29分Jaylan Pearman)
<試合開始前の整列後、Perth GloryのGK、Oliver Sailと握手する酒井。©Perth Glory>
<コイントスに応じる酒井とPerth Gloryのキャプテン、背番号22番のAdam Taggart。©Perth Glory>
Gloryのホームでの勝利は遡ること昨シーズンの2月、Brisbane Roar戦になる。一年ちかくもホームでの勝利から遠ざかっていた。そのGloryが前半29分、チーム設立一年目でリーグ首位を走るAuckland FCから先制点を奪う。18歳でGloryのアカデミー育ちの背番号25番、Jaylan Pearmanが豪快にネットを揺らす。酒井率いるAuckland FCの強固なDF陣からの得点奪取は、タジアムに詰めかけたGloryファンから驚きの混じった歓喜が巻き起こった。
<先制点をあげる背番号25番、Jaylan Pearman<写真左>©Perth Glory>
<Pearmanの得点を祝福するPerth Gloryの背番号20番、Trent Ostler<写真左>。©Perth Glory>
先制されたAuckland FCだが、酒井個人のパフォーマンスは際立っていた。最初のボールタッチでイエローカードを誘発させ、ハイボールへのヘディングの高さ、そしてスペースへの高速スプリントや相手選手への圧のかけ方はワールドクラスを渡り歩いた片鱗を十分見せつけた。
<打点の高いヘディングは酒井の得意とするところ。©Perth Glory>
<Perth Gloryのコーナーキック。体を張っての攻撃を止める酒井。©Mark Francesca>
しかし、前半のアディショナルタイムが2分と第4の審判から掲示された直後、スタジアムに2度目の衝撃が走った。Gloryの背番号15番、DFのZach Lisolajskiのシュートが酒井の顔面を直撃する。酒井はそのままグランドに倒れた。PA外からのシュートを体を張って阻止した酒井のプレーがLEDスクリーンに映し出され、スタジアムに悲鳴が響く。チームメートが横たわる酒井を囲み、ドクターが駆け寄る。なかなか立ち上がらない酒井。酒井を観るためにスタジアムに足を運んだパースの日本人サッカーファンも固唾をのむ時間が長く流れた。
上半身を起こした酒井に拍手が送られる。そして、ドクターに脇を抱えられ立ち上がる酒井は、そのままサイドラインへ消えていった。その直後に前半終了のホイッスルが鳴った。
<Perth Gloryの背番号15番、Zach Lisolajskiのシュート。©Mark Francesca>
<PA外からの強烈なシュートを酒井は顔を背けることなく、顔面でブロックする。©Perth Glory>
<グラウンドに倒れ込む酒井に両チームの選手が駆け寄る。©Perth Glory>
<ドクターの処置後、何とか膝を立てて起き上がった酒井。©Perth Glory>
<スタジアムからは拍手が沸き起こるが、そのままピッチを後にする。©Perth Glory>
後半が始まり、しばらく経った後、ベンチに酒井の姿があった。試合はGloryがAuckland FCの猛攻を凌ぎ、そのまま1対0で終了。Gloryにとっては今シーズンのホーム初勝利と、クラブ史上最多連敗記録を7でストップさせた。
<18歳の新星が、ほぼ一年ぶりのホームゲームでの勝利を導く。©Perth Glory>
<試合後、ファンと記念写真を撮るPearman。©Perth Glory>
<2024/25シーズンは中盤に差し掛かったが、この勝利をきっかけにPerth Gloryはどこまで巻き返せるか。©Mark Francesca>
試合後、プレーヤーズトンネルに一番最初に姿を現したAuckland FCの監督、Steve Coricaに「Bad Luck」と言いながら手を差し伸べると、怒りを抑えながら一言も発せずも握手には応じた。そして、時間経つことかれこれ、酒井がゆっくり階段を上ってきた。左瞼の横に衝撃の跡が見えたが、インタビューには快く応じてくれた。
<丁寧にインタビューに応じてくれた酒井。時折、ボールが当たった箇所に手を当てる。>
質問:あのシーンから、振り返させて下さい。今は大丈夫ですか?
「大丈夫です。脳震とうですね。(ボールがあたった)直後のことは覚えてません。ただ、(それまで試合には)負けていたり、(試合内容について)断片的には覚えていますね。」
質問:負傷交代をする前に、ご自分のサイドから崩されたシーンが2回続きましたが…。
「そうですね、上手くいってなかったですね。」
質問:試合中、センターバックのTommy Smithと言葉を交わしているシーンもございましたが。
「彼とはいつもですね。ただ、そういう(上手くいかない)時もありますので。」
質問:試合中、両手広げてチームメートに“落ち着け”といったジェスチャーを何度もされていましたね。
「先制点を取られて、ボールを失う回数も多かったので。シーズン通して、あのような試合展開になることはあると思っていましたが、今日は点が取れませんでしたね。」
質問:ハイプロファイルを継続する中で、なぜAリーグを選ばれたんですか?
「リーグというより国ですね。多くの人がニュージーランドやオーストラリアへ旅行したり留学したりしていますが、(その人たちからは)良いことしか聞いたことがなかったので。このリーグは日本のシーズンとは異なるので、浦和(レッズ)には迷惑をかけましたが。ただ、突然に決めたことではなく、計画性をもってオークランドに行きました。」
質問:Aリーグ参入一年目のチームについては?
「ヨーロッパに長くいたので抵抗なく海外へは出れましたし、(浦和でプレーしていた)あの時点で自分が掲げていた目標は達成できていたので、次の目標を探していました。30歳を過ぎて、この歳なると全てはモチベーションにかかっているので。そういう意味ではオークランドはとってもいい街で、自分にとってモチベーションになりますね。」
質問:オークランドでの生活面はいかがですか?
「日本では東京に住んでいましたが、東京にはない環境で生活ができていて充実しています。こうやってパースにも来れて、移動は長いですか…、シドニーやメルボルンとはまた違った文化を見たり感じることができています。」
質問:シーズンは半分過ぎましたが、今後の目標をお聞かせください。
「当初は(リーグで)トップ6に入って、ファイナルステージに進むということでしたが、現状では上手くいっているので、今日みたいに試合を落とすこともありますが、ここで一喜一憂することなく、シーズンはまだまだ続くので、チームとして戦っていきたいと思っています。」
<リーグ新加入チームでの初代キャプテンを務める重責も酒井にとっては過去の経験値から全く負担にはなっていないようだった。>
その後、脳震とうの影響でGlory戦から2試合ピッチから離れていたが、1月26日のRound 16、Western Sydney Wanderers戦でキャプテンマークをした酒井の姿がピッチに戻っていた。チームは、試合終了間際の得点で勝利。パース戦後に順位を落とすも、この勝利でリーグ首位に返り咲いた。
【2025月2月のPerth Gloryの試合日程】
(Round 17) Melbourne Victory
2月1日(金曜日) 6:45pmキックオフ 会場:HBF Park(★)
(Round 18) Central Coast Mariners
2月7日(火曜日) 6:45pmキックオフ 会場:HBF Park(★)
(Round 19) Melbourne City
2月15日(土曜日) 2:00pmキックオフ 会場:AAMI Park
(Round 20) Sydney FC
2月22日(土曜日) 6:45pmキックオフ 会場:HBF Park(★)
※(★)はホームゲーム、時間はパース時間。
酒井 宏樹(さかい ひろき/Hiroki SAKAI)
生年月日:1990年4月12日
出身:千葉県柏市(生まれは長野県中野市)
身長/体重:185cm/78kg
ポジション:ディフェンダー(DF)
青山 景昌(あおやま ひろあき/Hiroaki AOYAMA)
生年月日:1996年10月14日
出身:愛知県津島市
身長/体重:169cm/65kg
ポジション:フォワード(FW)/ミッドフィルダー(MF)
【文】 今城康雄(いまなりやすお)。パースの日本語メディア「The Perth Express」の代表兼、編集長。2005年のAリーグの開幕以来、リーグ公認のメディアとなっている「The Perth Express」のジャーナリストとしても、パースグローリーのホームゲームはほぼ全試合、記者席より取材を重ねてきた。また2020年は、パースグローリー日本地区担当マネージャー兼通訳として太田宏介氏をサポート(関連記事はこちら)。2022年にはWA州のNPLで活躍した今田海斗氏の通訳も行う(関連記事はこちら)。
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