塩害を被った土地では作物が育たなくなる。これは、農業を主産業としているオーストラリアにとっては致命的な打撃だ。このため、連邦政府も国策として、ユーカリの植林に乗り出すなど支援を惜しまない。自然破壊や、土地の人の生活をも脅かすまでに至る森林伐採を繰り返してきた日本の製紙業は、最近の自然保護の流れを受け「環境回復のため」の事業にも乗り出そうとしている。その例として、オーストラリア政府の植林政策に協力し、国側としては塩害から土地を守ることができる上に、企業側としては(ユーカリはオーストラリアでよく育ち、伐採可能な段階までの成長期間が短く繊維が多く採取できる樹種なため)、植林した木々を数年後に伐採しパルプ材として利用することができるような双方にメリットをもたらす政策が行われている。しかし一方で、これらの早生樹種は数サイクルで土地の地力が落ち、将来的には荒廃地のみが残されるという可能性を指摘する声もある。また環境面以外でも、土地の囲い込みによる地域社会との利害対立や生活の圧迫など、社会問題を引き起こしている事例も報告されている。

オーストラリア農業省が管轄する国土自然保護局、CALM(THE DEPARTMENT OF CONSERVATION AND LAND MANAGEMENT)の長年にわたる研究の結果、植林によって地下水面を急速に低下させる可能性があることが分かった。現在、CALMでは、従来通りに収穫・放牧するための実用的な農業システムを保持することと共に、植林する最適の土地面積比率を割り出す研究を進めている。これらの植林は従来の農場の慣習と統合することができ、かつ生産力を高めることもできる。西オーストラリア州の南西部にはマリー・ユーカリの植林が行われているが、そのマリー・ユーカリは油を産出し、植林と釣り合った巨大なマーケットを持った製品として期待されている。更に、松を植林に利用しようというプロジェクト(Maritime Pine Project)もある。通常、松は塩性であるエリアでも生育することからも、松の植林地を増やすことによって、生物の多様性を促進し、自生植物の生育地帯を作ることが可能となる。これは、残った在来の植物を増加させ、他の種を旧生息地に返す手助けにもなり、これまでに目標エリアとして上がった農業地帯の生態系を改善することに成功してきた。WEB:www.calm.wa.gov.au

- 農業慣習の変更① -
根深い多年生植物の一種Tagasaste は、砂上に根深く成長する。長い根は、地下から水分を吸い上げ、水分サイクルに役立つ。

- 農業慣習の変更② -
農作物を植えない期間は、虫や細菌をそのままにする。これにより、土壌品質も良くなり地下水レベルもコントロールされる。

- 農場林業 -
私有農場への林業の介入により地下水流のコントロールに貢献し、成長した樹木は、製紙と燃料木に利用される。日本からの個人投資者も参加。

オーストラリア自然保護財団 < ACF (Australian Conservation Foundation) >
種々の生命や自然環境を保護し、維持、復元させる団体のために働く。オーストラリア国内だけでなく、地球規模の環境問題を視野に入れ、その内容も核兵器問題や水質汚染、森林伐採と様々。科学、法律、経済各方面から環境回復に努力している。オーストラリアのワイナリー業者や主要企業と共に、塩害解決に向けて取り組んでいる。WEB:http://www.acfonline.org.au/

オーストラリア塩害協議会 < The State Salinity Council >
塩害に取り組む地域社会の人達へのリーダーシップ、及びサポート役を担う。組織は、地域社会や、塩害の被害にあっている人達の代表者で形成されており、両グループの相互作用のために、フォーラムの場を提供している。彼らのホームページでは、塩害に関係する西オーストラリア州政府機関や、民間団体のホームページにもリンクしている。 WEB:http://www.salinity.org.au/

ミレ二アムキッズ
パースの子どもたちが運営する環境団体。1996年に活動を開始し、15名の委員(10〜18歳)が組織の運営にあたっている。彼らは、農村部や都市部の牧場で植樹活動を行い、毎年、提携する学校の生徒や農場の人々と一緒に何千本もの木を植樹している。大地に木を甦らせるとともに、塩害を克服しようと努力している。WEB:www.millenniumkids.com.au

兵庫県
西オーストラリア州の姉妹都市である兵庫県は、姉妹都市提携20周年記念事業の一つとして、APN(アジア太平洋地球変動研究ネットワーク)と協力し、西オーストラリア州カルグーリ市にて国際研究ワークショップを開催した。ワークショップでは、西オーストラリア州における土壌の劣化、その原因となる塩害などについて、情報交換・研究成果発表を行い、実際に被害にあっている土地を視察するなどした。


■土地所有者が、上昇する地下水位をコントロールするため、グループ単位で活動している。 写真:Courtesy Agriculture Western Australia 資料提供:CALM


■長年に渡る西オーストラリアの樹木繁殖が、上質の植物群を生み出しMaritime Pine Project(海岸線に松を植林するプロジェクト)の基礎となっている。 写真:Jiri Lochman 資料提供:CALM


■根深い多年生植物の一種Tagasaste は、砂上に根深く成長する。長い根は、地下から水分を吸い上げ、水分サイクルに役立つ。 資料提供:The State Salinity Council


■農作物を植えない期間は、虫や細菌をそのままにする。これにより、土壌品質も良くなり地下水レベルもコントロールされる。資料提供:The State Salinity Council


■私有農場への林業の介入により地下水流のコントロールに貢献し、成長した樹木は、製紙と燃料木に利用される。日本からの個人投資者も参加。資料提供:The State Salinity Council


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