2000年4月、ビルマ国境に近いタイの小さな町。その町に住む妹の家にタエポー一家が勢揃いした。上の姉は英国人の夫をバンコクに残して1歳になる息子を連れて来た。タエポー夫婦と父母も、タイ国境の検問をすり抜け、難民キャンプからやって来ていた。
 難民キャンプにいる時のタエポーは、私と自然に話をするようになっていた。だが、押しの強い姉が一緒に会話に加わると、ついつい引いてしまって、口をつぐんでしまう。子供が大きくなって、難民キャンプでの生活がどう変わったのか聞きたかったのだが、彼女たち姉妹の関係を考えると、彼女を無理やり会話に引き入れるわけにはいかなかった。

 冷静に考えれば、多種多様な顔ぶれの一家族だ。どのように分類したらいいのか。国籍でいえば、タイ、ビルマ、オーストラリア、イギリス、そして無国籍。また、男と女という分け方。さらに、生まれた場所も時代も世代も違う人々がいる。
 ヒトは、この世に生を受けるとき、時代・地域・性・民族・国籍・人種・身体的特徴を選ぶことができない。私は、そのことにあらためて気づかされた。そして、彼らの前で困惑した。この現実をどう切り取ったらいいのか。単純ではないこの現実を映像として、どのように切り取ったらいいのか。シャッターを押す指に力を入れるのは簡単だが、果たしてそれだけでいいのか。
(つづく)

 


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