タエポーといろいろな話をしたが、決して話題にできないことがあった。それは、彼女自身の夢を真剣に語ることだった。姉のように危険を冒して難民キャンプから抜け出す以外に、タエポーたちには将来の道が開かれていない。生まれて以来ずっと、紛争の影響の下で暮らしてきた彼女に、何を聞いたとしても、その答えはむなしく響く。
ビルマ国内での生活を体験してきた親の世代は、再び故郷での暮しを夢見て、今の難民生活の厳しさに耐えることができる。では、彼女たちのように異国の難民キャンプで生まれ育った者は、何にすがれば苦境を乗り切ることができるのだろうか。
撮影したフィルムには、ぼんやりと何かを見つめているタエポーの姿が多く写っていた。
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彼女の視線の先にはいったい何が捉えられているのだろうか。ファインダーを覗きながら、その視線の先に映る彼女のイメージを何とか捉えようともした。
タエポーの妹は、バンコクの姉と同じように、難民キャンプで英語を教えていたオーストラリア人と結婚し、タイ領内で合法的に住むための身分を手に入れることができた。
父母は、3人いる娘の中で、タエポーにだけカレンの伝統を受け継がせたいみたいだ。タエポーは母親の言いつけ通りに髪を長くのばし、いつもきちんと手入れをしている。彼女の結婚相手も母親が見つけてきた。親の家のすぐ横に2人の新居を構えたタエポー。子どもに乳をやりながら、昔ながらの癖でぼんやりと何かを見つめている。
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