ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド。
鈍い音が空気を振わせ、低いエンジン音が近づいてきた。また一艘、ボートが遡ってくる。反射的に時間を確認する。午後5時半過ぎ。ほんのこの1時間で6艘のボートが目の前を通り過ぎて行った。一体、いつになったら迎えのボートは来るのだろうか。待ちくたびれ、少々気が急いてきていた。
国境を越えてビルマ側に渡ったからには、タイ側にいるように自由きままに動き回ることはできない。今は指示どおり待機するしかない。焦っても仕方がないとわかっているが、一刻も早く、サルウィン河の河岸から離れたいのだ。いつまでも、ビルマ・タイ国境でくすぶっているわけにはいかないのだから。
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この音こそは迎えのボートだな。そう確信する間もなく、河の中ほどでエンジンを切り、水の流れにのったボートが一艘、滑るように砂浜に寄ってきた。20人近いカレン兵と物資を満載している。ボートの中ほどに席を見つけ、腰をかける。板子の隙間から水がしみ出している。 |