陽が落ちても決して真っ暗闇になるわけではない。目が慣れてくると、周りの地形や河の水面につきだしている岩の様子などをうっすらと観察することができる。もちろん、この河を数え切れないほど行き来しているはずの舵手の動きは軽やかだ。右に左に櫂をあやつり船を進める。
 瞬きをするたびに、星が姿を増していく。ひとつ、ふたつ、みっつ。「あ、またひとつ」。声が出そうだ。天空の大パノラマは輝きを増し続ける。ほんの数十分の間に、降り出しそうな星空になっていた。いつのまにか満天の星である。山の稜線上に広がる光の洪水を前にして、急に真摯な気持ちになる。“星に願いを”じゃないけど、今度の取材がうまくいきますようにと心の底から祈る。


  また、これまでずっと吹っ切れなかった胸中の思いが、なぜだか再び、顔をもたげる。
  −−−「じゃあ、また」と言った時、いつも返答に困って、すまなさそうに作り笑顔を浮かべていた。それで、「あのね」って続けたんだけど。まあ、それはそれでいいか。そのことは時間が解決するしかないのだ。−−−。
   


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