影身−非情なものに、新中納言さま、どうぞしかと眼をお据え下さいませ。非情にめぐって行くゆえにこそわたくしどもたまゆらの人間たち、きらめく星をみつめて思いを深めることも、みずから慰め、力づけ、生きる命の重さを知ることもできるのではございませんか。
知盛−(ほとんど慟哭する)
影身−…新中納言さま、人の世の大きな動きもまた、非情なものでございます。非情の相を、新中納言さま、どうぞ、どうぞ、しっかりと眼をこらして見定めて下さいませ。
知盛−…影身よ…そうか…非情の相を…しかと眼をこらして…見定めよとか。…われらたまゆらの人間が、永遠なるものと思いを交わしてまぐあいを遂げ得る…。
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人の世の「大きな」動きは非情である。ビルマ軍事政権に反旗を翻して武装抵抗をし続けるゲリラの存在など、あの星の永遠さから見ると本当に「たまゆら」である。でも、その永遠の存在の下、地面をはいつくばりながら、明日こそは良い暮らしが、いや平和な暮らしが来るのだと(平家物語風にいうと)首の取り合いをしている彼らをわらうことはできない。いつの間にか、その彼らの存在に関わってしまった私も、しかと眼をこらして彼らの行く末をできる限り見ていきたいと思う。
このボートが行き着く先は、前線へとつながる険しい山道への入り口である。明日からは、あの星に近づくように、一歩一歩、前に進んでいくしかない。
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