半時間もすると太陽が落ち、暗くなってきた。気づかぬ間に正面に明るい星が現れている。だが、星に見入っている余裕はない。暗さが増す中、ボートは右に左に、上に下に揺れながら疾走する。身体を左右に揺らしながら揺れる船のリズムと一体化する。水深のあるところでスピードを上げるボートは、上下の振動が激しくなり、水しぶきをまき散らす。全身ずぶ濡れになる。昼間の暑さが嘘のように、急に寒さが襲ってくる。膝を抱えて座り込んだカレン兵士たちは毛布を前にかぶり、水しぶきと寒さをしのいでいる。
 ボートはさらに半時間ほど走る。隣りに座っていたSが左側の丘を指さし、
  「あそこがビルマ軍兵士のいるところだ。時々、あそこら辺から射撃があるんだ。」


 こんなところで狙い撃ちされたら一巻の終わりだな。右岸に目をやり、泳ぎ切ることができる距離かどうか目測する。右側は、まだタイ領だ。なんとか泳ぎ着くことができれば命拾いはできるだろう。風の音、水の音、エンジンの音、耳に心地よく響く。
   


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