ロシア大使館裏にあったスラム街は、火事のため焼失し、町の中心から10km以上離れた、田畑の緑だけが風景のオンロンクオガンという地域に移された。
 「政府が、火をつけたんだ。」
 中国語と英語を流ちょうに話す40歳代の男性が、怒りの心情を抑えながら話した。
 「こんな不便な場所に移されて、どうすりゃいいんだ。仕事もない。どうやって生きていけばいいんだ。」 とにかく首都へ行けば生きながらえるという状態だった。それも許されなくなっている。ぱっと見た限りでは、その大きささえ見当のつかない広い敷地に、約1000世帯の家族が移されてきた。ロシア大使館裏の狭い地域にひしめき合って生きてきた人達。

   開けた所に移されても、肩寄せ合って、家を建てている。おんぼろの家から、見た目はきれいな家まで、スラムの様相そのままの地区となっている。
  表通りは整備され、それほど悪くない。だが、狭い入り組んだ路地を歩くと、鼻の奥を刺激する臭いが漂う生活空間に迷い込む。そこで、何の気なしに、ひょいと小屋の中をのぞき込み、ボンリアンさんと出会ったのだ。
  どこにあっても人は生まれ、死んでいく。報道される死もあれはそうでない死もある。悼まれる死があるとすれば、誰にもその死が意味をなさない人の存在にこそ、思いを馳せる余裕があってもいいのではないだろうか。
   


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