「エイズだよ。家族は誰もいないんだ。」
2軒離れた家では、男が腹を押さえて苦しそうにうめいていた。奥さんが私にクメール語で何やらわめいている。英語で通訳してくれた人がたどたどしく説明してくれた。
「2ヶ月間、ずっと苦しんでいるんです。援助団体の診療所は薬はくれるけど、食べるモノがないんです。お米を買うお金をください。」
極めて稀なことだが、私は自分の財布から米ドル札を抜き出していた。
雨でぬかるんだ裏道通りを抜け、開けた通りに出た。青い空の下、ようやく息をつく。なんとか自分の世界に戻ることができた。何が、彼ら/彼女らと自分を分けているのだろう。
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明るすぎる青い空は気持ちいい。それなのに、なんか重たさを感じる。一緒に来ていたYさんを探しだし、ボンリアンさんのもとに連れて来る。Yさんは、彼女の足の甲を指で押してみた。
「浮腫がでてますね。」
枕元にあるプラスチック製の薬入れのラベルを読む。
「なんで鉄分なの?」 |