死は不条理ではない。その迎え方が不条理だと思う。
 死は決して悲しいものでも、恐ろしいものでもない。それは、自然の一部なのだから。それをありのままに受け入れることができる、そんな状況がありさえすればいいのだ。それは、身近に心を許せるひとりの人が、たった一人でもいればいい。それでいいのだ。柔らかなベッドも、目の飛び出るくらいの高価な薬もいらない。最期の最期に、しっかりと手を握ってくれる人がいればいいのだ。決して、独りではないんだよ。そういうメッセージを、言葉にならなくとも交わせる人がいればいい。

   すえた臭いの漂う路地を抜ける。靴底は泥まみれ。一緒に歩いていたYさんが、口に出した。
  「こんな状況に出くわすと、何もできない自分が情けないんです。ただ無力感しか残らないんです。」
 医療看護士を目指してカンボジアに来たYさん。そこに生きる人の現状を目の当たりにし、やはり動揺していた。25歳の人間の正直、偽らざる心情であろう。でもなあ、ちょっとちゃうんでは ─ 何かをしてあげよう、誰かの役に立ちたい ─ そんな、過度に気負った気持ちを持っていると、ここに住む人達、いや、困難に出くわしている人達とどこまで心を通わせていくことができるだろうか。
   


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