でも、日本語を話すおばあさんも何人かいますし、心配ありませんよ。ハルモニたちとできるだけ時間を共にするようにするしかないですね。ただ、個性あるおばあさんたちばかりですが、普通に接して下さい。」
 おばあさんに会う前に、能光さんにそう言われていた。
 「もちろん、自由に取材して下さい。ボランティアで住み込んだ外国人はこれまでもいましたが、取材が目的で住み込んだ外国人は、あなたが最初ですし、頑張って下さいね。ただ一つ、個人的な話は、他のおばあさんの前で決してしないで下さい。それぞれ特別な事情があって、今ここに入っていますから。」

   「アンニョンハセヨ」。覚え立ての言葉で挨拶をする。「あなた、日本から来たの?言葉わかるの」。訪問者には慣れているらしい朴玉蓮(パク=オクリヨン)さん(85)が、日本語で返事してくれた。緊張が一瞬、ほどけた。背丈は、本当に私の胸にも届かない。ちいさなおばあさんだ。なんとなく間が持たない。その時、運良く鐘が鳴った。「もうご飯だね。来なさい」。朴玉蓮さんは、私の手をさっと握ったまま、階段を下りていく。食堂のある生活館1号棟へ案内してくれるらしい。ちっちゃな手だ。私もしっかりと握り返した。
 しかし、食事はすぐに始まらなかった。しばらく1号棟1階にある団らん室で時間をつぶす。
   


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