大学生になる頃には、もう「形」ができあがっていった。
 「感性」というのは計測不可能だ。基準がない。どのように対処していいのか分からない。まったく曖昧模糊なものである。では、どのようにしてこの形ないものに向き合っていけばいいのか。
 まあ、手っ取り早く、自分の感性とはなんなのか、というところから始めるのがいいのかもしれない。本来なら、優しさや憎悪、喜びと悲しみ、愛情と無関心。そんな「情感」にも触れたい気もする。だが、そこはまだまだ奥が深すぎる。やはり職業的に、具体的に映像面での「感性」というのに触れてみたい。

  ボストンでの写真修行の日々、デイビッドに言われるように写真を通して、自分の感性の源泉を探し始めていた。 確かに、日にちが経つにつれ、目に見えて「写真術」はうまくなっていった。ただ、自分が最終的に何を撮りたいのか、何をどう表現したいのか、相変わらず分からないままであった。
 毎日、ただただ暗室に籠もる日々が続いた。冷たく暗い、鼻腔の奥をツンと突く、定着液(酢酸の)の充満する場所に立ちん坊だった。20人位が一度に作業ができる大きな暗室だったが、夜遅く一人っきりになることもよくあった。


   


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