自分の持っていた絵の具には『肌色』というのがなかった(ちなみに、絵の具メーカはつい数年前、この「肌色」という色をなくした。当然である)。
 その時の私は仕方なく、赤や黄色の絵の具を混ぜて、なんとか自分の見たままの色を作り上げ、画用紙に塗ろうとしていた。しかし、実際は色を混ぜながら、その時の友人の顔を懸命に思い出し、想像することの方に楽しみを見い出していた。走るとき、鼻の穴が大きくふくれる多田君の顔を思い浮かべていた。太い足で走る多田君は速かったなあ、そんなことを思い出していた。だんだん、自分のイメージが膨れあがっていった。確かにリレーのバトンを持って走っている多田君の顔や手足は、まるでお酒を飲んだような赤色の顔に塗ってしまった。

 不自然な色だったかもしれない。でも、私はその時の必死の多田君な印象をそのまま絵にした。
 
   


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