しかしボ・ジョーこそが、「もし」と言うとき、その言葉にはこの歴史と立場のすれ違いへの皮肉が込められているように思える。
 私に「逆インタビュー」をしたボ・ジョーは、ノートに記した2人の生年月日の文字をなぞりながら言った。
 「もし、君が私の立場ならどうする。」
 現在のカレンの政治的・戦闘的状況。カレン指導部内での矛盾。さらに個人的な苦しみまで私に話してくれた上での質問だった。
 そんな「もし」に私はこたえることが出来なかった。私をまっすぐ見つめる目。教えて欲しいと問いかけるまなざし。彼の村を思う気持ち、カレンを思いやる心、「自由」を夢見る日々。考え始めると夜も眠れないという。彼の質問に、私にはこたえる言葉がなかった。

 新世紀を迎えた1月1日朝5時40分、60名のカレン兵を率いた彼はビルマ軍に戦いを挑んだ。手持ちの武器は旧式でうまく作動しなかった。
 5名の死者。13名の負傷者。ゲリラ戦としては致命的な大敗である。
 「戦いたくない。が戦わざるを得ないんだ」。噛みしめるように話すボ・ジョー。私は彼の置かれた状況の過酷さを想像することはできるが、決して彼の感じる思いを共有・共感できるはずはない。
 そんな彼に私は残酷な質問をした。
 「死んだ5人の人生、運命についてどう思う」と。
 その日の午後、彼は柵に腰をおろし、じっと考え込んでいた。その姿は今でも目に焼き付いている。夕方、彼は過労で倒れた。

   


This site is developed and maintained by The Perth Express. A.C.N. 058 608 281
Copyright (c) The Perth Express. All Reserved.