「きみと別れてからあんなことになってしまって、一時期、俺、どうしていいかわからなくなってしまったんだ。」
 「あそこのスタジオのことだったら、私、もうなんとも思っていないから気にしないで。」
 「まあ、聞いてくれよ。それでね、ある時フラフラと夕日を見に行ったんだけれど、そのとき偶然、これを拾ったんだ。」
 「白墨?」
 「そう、白墨。それで何気なく歩道の上を見ていたら、いや、ほんとは何気なくなんかじゃなかった。

あの頃はもう最悪で、ただもう、自分が嫌で嫌で、怖くて顔を上げて歩けなくなってしまう程だったから。それで、何気なくというか仕方なく歩道の上を見ていたら、コンクリ−トにひびが入っているのが見えてきた。笑わないで聞いて欲しいんだけれども、そのとき、僕は神の啓示を受けたんだよ。」
 「20世紀のばらばらになった世界を一つにしなさいって?」
 僕に向けられていた彼女の瞳から、それまでの言葉のやり取りとはうらはらに、真剣な何かを感じたのは確かでした。僕はそれに勇気づけられるように息を整えてから、話の先を続けました。

   


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