僕は結局、MADISONと呼ばれるその女性に冷たいとかなんとか文句をつけることによって、お金の力で人を買ってしまった自分の後ろめたい立場を隠そうとしていたのではないかと思いました。“そういう、ずるい考えでいたからこんなに疲れてしまったに違いない”。そう思い当たった途端、これまでのMADISONへの距離を置いたままの姿勢があまり気にならなくなってしまったばかりか、かえって僕を救ってくれていたような気さえしてきました。そして別の言い方をすれば、彼女はそう考えても惜しくないくらいに、僕のタイプだったのだと思います。

 

 MADISONが部屋に戻ってきました。彼女は無造作にスパンコールのワンピースを脱ぎ捨てると、左の足で器用に摘み上げてから、かたちが崩れない様にハンガーに掛け直しました。そして、僕に背中を向けた姿勢のままで話しました。
 「あなた、フックはずせる?」
 僕は立ち上がって彼女の背中に手を伸ばすと、レースのブラジャーのフックをねじるようにしてはずしました。次にガーターベルトを外すのも手伝いました。そうすることによって特別、色気やエロティックな気持ちのようなものは何も感じませんでした。

   


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