「キャッシュ?」
「えっ、あっ、キャッシュでお願いします。」
彼女は表情を変えることなく、渡した50ドル札を一回だけ数えてから小さなショルダーバッグの中にしまうと「ちょっと待ってて」と言い残してホ−ルの方に歩いて行きました。彼女が姿を消すと、僕は次第にそれまでの息苦しさから開放されていきました。そして、少し冷静さを取り戻した頭で考えました。あの子はすごい美人だけれども、ミミみたいな人とは全然違って、きっとすごく冷たい人なのかもしれない。だって、その証拠に必要なこと以外、何も口にしようとしないじゃないか。考えてみれば、何も全部お金を使う必要なんて無かったのです。残った分はそのままオーナーのところか、
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運転手のジェラミーのところに持って帰ればそれでよかったのです。じゃあ、なぜ全部渡してしまったのだろうと考えたとき、たぶん、僕はあのすごい美人が500ドルを受け取ったとき、どんな風に変わるのだろう、あるいは何か弱さみたいなものを見せるのではないかと知らないうちに期待してしまったのではないかと思うのです。そしてできることなら、ミミの言っていた“これから一緒に罪を犯すのよ”といった瞬間を、フィフティ・フィフティの気持ちでシェアしたかったのだろうと思いました。そういった理由付けでもしない限り、SEXマシーンでもあるまいし、こんな訳の分からない所で一人心細い思いをしているなんて、とても耐えられることではありませんでしたから。
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