「そこでなにしてるの。行くわよ。」
 いつのまにかキッチンに戻っていた彼女が、声をかけてきました。僕はその声に力無く答えてから立ち上がると、ティンルーフをたたく雨音と僕のつくため息以外、ほかに何もなかった狭いキッチンを出て、彼女に従いながら廊下の右にある部屋に入りました。
 「シャワー使ってね。」
 薄暗い、天井の高い部屋の一番奥のシャワーを指差してから、彼女はまた事務的な歩き方で部屋を出て行ってしまいました。僕はシャワ−を手短に使うと、バスタオルを腰に巻いて部屋の真ん中に置いてあったクイーンサイズのベッドの端に腰掛け、

まだ名前も知らない彼女の帰りを少し期待の残った気持ちのまま、待つことにしました。

 ドアの隙間から、レセプションの辺りのやりとりが聞こえてきました。
 「それでMADISON、今回は?」
 「3時間。」
 MADISONと呼ばれた女性、たぶん‘スパンコールのブルーネット’が、どうしておまけしてくれたのか分かりませんが、そう答えていました。
 薄暗い窓の向こうに、何もする前からもう十分疲れてしまった自分の顔がぼんやりと映っていました。2時間45分でも、3時間でも、手術台の上で執刀を待つ患者のような気持ちに、かわりはありませんでした。


   


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