レセプションの向かいに絨毯と同じ色の円形のソファがあり、そこにスパンコ−ルを散りばめたノースリーブのワンピースの、ものすごい美人のブルーネットが一人、ゆったりと足を組んで座っていました。僕は、入り口のドアを後ろ手に閉めたまま、カーボーイ男が忙しく歩き回っているためにその円形のソファに座るわけにもいかず、突っ立ったまま店の中の様子をうかがいました。
 「ダーリン、ここは初めてかしら?」レセプションの女性が、カーボーイの男を見たまま僕に話しかけてきました。「ええ、初めてです」と僕が話し始めた途端、カーボーイの男が口を挟みました。
 「けっ、また‘ジャップ’のご登場でございか! おまえら、そんなに‘ジャップ’のコックをしゃぶってうれしいのか? 誇りを持て! 誇りを!」

 「気にしないでね。この人、やきもちやいてるの。ねっ、そうでしょう?」レセプションの女性が僕に顔を向けながら、さっきよりももっと楽しそうに笑いました。ブルーネットの女性の方は、別に何も気にしていない風で、ゆったり寛いでいるままの姿勢を保っています。でもうまく言えないのですが、そこには間違いなくものすごく張り詰めた空気のようなものがありました。お目当ての女の子がたぶん自分よりも先に来た東洋人に買われてしまい、嫉妬に狂ったカーボーイ男の行き場の無い気持ちに向かい合うように、どっちに転ぶかわからないこの緊張の行方を、僕たち3人は暗黙のうちにアイコンタクトを取ることによって見守ることになってしまったのでした。

   


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