でも、今は違います。これから、僕は見ず知らずの好きでもない女の人の前で、裸にならなくてはいけない。そして、SEXしなければいけない。また、その人がどんなことを僕にしてくれたか、オーナーに話さなければいけない。ということは、お酒を飲んだ勢いでスタジオ69に入る訳にはいかないということです。
  僕はドアの外で呼吸を整えながら、少しの間、雨脚の強くなりだした夜の空を見るでもなく眺めていました。一体、どれくらいそうしていたのでしょう。肩のあたりがひんやり濡れていましたから、けっこう長いことそうしていたような気がします。気が付くと、店の中から誰かの怒鳴っている声が聞こえてきました。

 僕は、その声に背中を押されるように、ついに決心してスタジオ69のドアを開けたのでした。

 中に入って最初に目にはいったものは赤い毛足の長い絨毯と、その上を檻の中の動物みたいにぐるぐる歩き回っているアキューブラの帽子をかぶったカーボーイ風の男でした。キャシーズと違ってここのお店には、お客さんが待っている間に遊べるようなビリヤードの台や、バーのカウンターはありませんでした。入り口の右側にレセプションがあり、感じの良さそうな若い大柄の女性が楽しそうに笑いながら、ぐるぐる歩き回るカーボーイの男を眺めていました。

   


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