Q:
ビジネスを行い、人を雇うことで知っておかなければならない賃金のことや源泉徴収、スーパーアニュエーションについて教えて下さい。
A:
人件費の高いオーストラリア。何かとFair Workの摘発、キャッシュペイ(現金渡しで、働いていなかったことにすること)など、問題もルールも多い給与管理。そこで、雇う立場の雇用主の順守事項(やらなくてはならないこと)をみてみましょう。
【最低賃金】
最低賃金は業種や役割、レベルごとに定められています。最低賃金を調べるには下記のFair Work のPay Calculatorで調べることができます(https://calculate.fairwork.gov.au/findyouraward)。Fair Workに摘発され、監査、罰金、そして報道などで公表されるなどといった話を聞いたことがある方もいるでしょう。これは、例えば時給15ドルなどの違法賃金や、フルタイムやパートタイムなのにAnnual LeaveやSick Leaveが付かなかったなどの違反によるものです。Fair Workの監査によって重箱の隅がつっつかれ、罰金や過去に遡って支払うことになり、かなりの金額となることもあります。また、インターネットで公示され、悪質な場合は裁判所行きとなります。
【ATO(オーストラリア国税庁)の源泉徴収(PAYG Withholding)】
一定の給料を上回ると、ATO指定の源泉徴収額(天引きする金額)に則り、従業員の給料から税金を天引きし、BASでGSTと一緒にATOに納めます。この天引きした額は従業員の前払いの税金で、従業員がタックスリターンを申告した際の返金の一部となります。
【スーパーアニュエーション】
総収入の9.5%(2018年)を従業員のスーパーアニュエーションとして3か月に一度支払います。支払い方法は、SuperStreamに則り、支払います。スーパーアニュエーションもきちんと支払っていないビジネスがないか、現在ATOによる監査が重点的に行われています。
【ワーキングホリデービザ保持者を雇うビジネス】
ワーキングホリデーの方を雇う場合は注意が必要です。通称バックパッカー税の影響で、ATOへの登録および、最低でも15%の税金を天引きする必要があります。また、ワーキングホリデーから学生ビザやビジネスビザ、永住ビザに変わった場合も処理を変える必要があります。
上記のように特に日本人のビジネスオーナーにとってはペイロール(給与管理)は複雑な分野です。きちんとしようと思っていてもなかなか実務上、難しいのも事実です。従業員を雇用している場合は、上記が計算される会計ソフトの利用をお勧め致します。また、長い目で見ると結果として高くつく、ということも多々で、最初に会計士に相談することをお勧め致します。
そして、ご紹介した【税金の源泉徴収】や【スーパーアニュエーション】はビジネスがつぶれても、会社役員やビジネスオーナーの債務となり、逃げることができず、個人的に払う必要があります。持ち家など持っている方は一気に吹き飛ぶ可能性があるでしょう。知ってて不正をするか、知らないで不正をするのか、も大きな違いです。
雇われる方の立場としては、これらがきちんと払われているか、権利のみを主張せず、いい仕事をしているか、を認識することが大切です。無知は罪といいますが、無知を理由に騙されないようにしましょう。Fair WorkやATOには通告、密告する部署もあります。また、現金でもらって働いていなかったことにする、キャッシュジョブと言われているのも働いている側からすると不法労働、および収入を隠す所得隠しとなります。
せっかく住むことになったオーストラリア。日本人が同じ日本人を搾取しないで、お互いが幸せなオーストラリア生活を送れるようになればよいでしょう。これがナショナリズムではないでしょうか。
今回で当連載は最終回となりますが、税やビジネスのことについてこちら(www.facebook.com/ezytaxsolutions.japan)にも今後、情報を掲載致しますので、ご覧頂けたらと思います。今までご愛読頂きまして、ありがとうございました。
賀谷祥平 Shohei Kaya
豪州公認会計士、豪州登録税理士、米国公認会計士。上智大学経済学部、James Cook University MBA、University of New England会計大学院、卒業。Ezy Tax Solutions Pty Ltd代表取締役。また、2001年、騎手を志し豪州の競馬学校に入学。2003年、ニューサウスウェールズ州Coffs Harbour競馬場にて騎手デビュー。現在は、クイーンズランド州北部の競馬場で騎乗。