<応援に駆け付けた日本人ファンに頭を下げるグローリーの背番号8番、DFの太田宏介>
試合直後のピッチで水を口に含みながら笑顔を見せたパースグローリーの背番号8番、太田宏介。敗戦を知らせるホイッスルでグラウンドに残されたイレブンの下にコーチやベンチスタッフが歩み寄る。ほとんどが無表情のまま握手をしてうな垂れる選手たちの中、太田は前を向いていた。
<Aリーグを知る記者の視点 A League Football Journalist’s Point Of View> 今シーズン(A League 2020-21 Season)から、Aリーグを知る記者の視点から更に詳しくパースグローリーの試合についてお届けする。 |
2020-21シーズンAリーグ パースグローリー試合結果 Matchweek 10
Perth Glory 1 – 2 Central Coast Mariners 会場:HBF Park
試合は前半で0-2。アウェイのCentral Coast Marinersがリード。2つの失点はともにDFの連携ミス。裏を簡単に取られた。前節から4選手を入れ替え、若いチームが更に若い選手で臨んだ前半だった。
ハーフタイムでドレッシングルームに引き上げる選手たち。太田の口から「早い段階から、ありそうですね」と軽く笑みがこぼれる。
そして迎えた後半。前節と同様、5分過ぎにベンチメンバーはゴール裏でウォーミングアップをはじめ、太田も加わる。慌てた感じでベンチから詰め寄って来たアシスタントコーチ、Steven McGarryの強いスコティッシュ・アクセントでセットプレーについての指示が太田に出された。
するとアップもままならない中、すぐさま3選手がベンチから呼ばれる。監督からの具体的な指示はなかった。ただ、いち早くベンチに戻っていたMcGarryに太田が「ニコラス?」と聞くと「イエス!Nicholas Sullivanだ!」の一言。背番号16番のNicholas Sullivanは右サイドのDF。太田の主戦場は左サイド。場内アナウンスで「背番号16番のNicholas Sullivanに代わって背番号8番、コウスケ・オオタ!」と高々告げられる。
迷いもなく左サイドへゆっくりと歩みを進める太田に、すでに左サイドを陣取っていた背番号23番、Dane Inghamがきょとんとした顔をしている。そして、ベンチからDaneに右サイドに移れの指示。
ウォーミングアップ中のMcGarryの指示に“Nicholas”の名は上がっていたが、スコティッシュ・アクセントの上に緊迫した状況ではなかなか聞き取れるものではなかったはず。そして、ベンチで太田が一回だけ確認した“Nicholas”の名前。
秒刻みでベンチは動く。怒号も行き交う。アイキャッチで情報伝達を強いられる。その状況で理解は言葉を越えるのか。太田はもう2戦目にしてその世界にいて、慌てることなく一連を把握していた。
58分(後半13分)に3選手がピッチに入った。後半開始から背番号17番のDiego Castro、そして太田を含めたその3選手の経験値は十分。そこからのグローリーは息を吹き返えすように怒涛の攻撃を繰り広げる。その中心が太田だった。
7分後の65分(後半20分)、太田からの正確無比な左足からのラストパスがゴール前に蹴り込まれ、背番号9番のストライカーBruno Fornaroliが体を投げ打って頭で合わせる。前節同様のホットラインで一点をもぎ取るグローリー。この試合も太田はアシストを早々に記録する。
その後もボールは左サイドに集められる。攻撃の起点を同じく担うCastroとパス交換を何度も繰り返す太田。そして、ラストパスのクロス。右サイドもそのテンポに感化され、アーリークロスがゴール前に集められる。MarinersのDF陣は必至でゴールを守る。時間稼ぎと取られMarinersのGKには度々ブーイングが飛ぶ。アディショナルタイムは5分。右からのCKはショートコーナーで太田の足元に。ラストチャンスは太田に託された。2試合、しかも約30分間づつでチームの信頼は勝ち取っていた。
試合後のドレッシングルームで多くの選手が下を向く中、顔を上げ、監督の指示を注意深く聞き取っていた太田。「試合結果はあまり気にならないんです。試合が終わったらすぐに気持ちを切り替えるタイプなんで」と話す太田は「仕事はしましたもんね」と胸を張る。アシストという仕事への自信は揺るぎないものだった。
<雨の降る中、試合開始前のウォーミングアップ後、ドレッシングルームに引き上げるグローリーの選手たち。最後方が背番号8番の太田宏介>
【試合結果】
Perth Glory 1-2 Central Coast Mariners
得点:
<Perth Glory>
Bruno Fornaroli(65分)
<BRISBANE ROAR>
Matt Simon(6分)
Marco Ureña(40分)
文:今城康雄(いまなりやすお)。パースの日本語メディア「The Perth Express」の代表兼、編集長。2005年のAリーグの開幕以来、リーグ公認のメディアとなっている「The Perth Express」のジャーナリストとしても、パースグローリーのホームゲームはほぼ全試合、記者席より取材を重ねてきた。2020年よりパースグローリー日本地区担当マネージャー兼任。
【参考】
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