【前回までのあらすじ】
沢田百々子、45歳。百々子にパースでストーカー行為をはたらいた恩田正平は、15年後のサンフランシスコでまた百々子を連れ去り、車内で拘束した。
沢田百々子、45歳。百々子にパースでストーカー行為をはたらいた恩田正平は、15年後のサンフランシスコでまた百々子を連れ去り、車内で拘束した。
第33走者
元シェフ
密室となっていた車内は湿度が高く、曇っていた。空気も淀んでいた。シートに染み付いた煙草の臭いは百々子の鼻を突き、後部座席から見る助手席の下には、空き缶が2つ転がっていた。一つの空き缶の横には穴が開いていた。
運転席の恩田正平は、後部座席で横になっている百々子に目をやった。そして右手をゆっくり伸ばして腰に手を置く。百々子はぴくっと反応する。しかし、口にはハンカチ、手は結束バンド、足は紐で固定され、なすすべがない。嫌な汗が一気に体から噴き出るのがわかった。
「百々子のことが好きなんだ。分かってくれ」と正平は抑揚なく言った。その時、隣のRisaが足を組むのを止め、左足がフットマットの上で鈍い音を立てた。
正平の手が、ゆっくりと百々子の体の上で彷徨う。百々子は一瞬のうちにパースで受けたあの時のこと思い出した。そして、また気が遠くなりつつあった。しかし、身体の芯が心を揺さぶり、意識が戻ってくるのを百々子は感じた。「どうしよう、なんとかしなくては」という強い思いが湧き出て、飛び跳ねるようにフットマットの上に転げ落ちた。
すでに正平の手は、百々子の服の中に忍び込んでいた。正平はフロントガラスの向こう見ながら、上半身だけ傾けながら右手を動かし続けていたが、転げ落ちた百々子を見下ろして「ダメじゃないか、ケガをするよ」と少し語彙を強めて言い、車から降りた。リアドアを開き、百々子を抱きかかえるように座席の上に戻すと、そのまま正平は運転席側の後部座席に腰を下ろした。
その時、衝動が百々子を動かした。膝を曲げ、紐で束ねられた両足をそのまま一気に伸ばして正平の横っ腹に突き刺した。正平は前かがみになり悶えたが、次の瞬間に大声を上げ、百々子を睨みつけた。と同時に、リュックサックに忍ばせたRisaの右手から何かが取り出されるのを座席とドアの隙間から百々子は見た。
第34走者へ続く
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