【特集】 知る・作る・楽しむ パースで陶芸 Ceramic Art in Perth
月刊誌『パースエクスプレス』では毎月特集を企画し、紹介しています。ここでは、11月号特集で掲載したパースでの陶芸についてお届けします。
古くから日本では、食文化と共に発展を遂げてきた独自のスタイルをもつ、陶芸。そして、世界の陶芸史に多大な影響を与えてきた日本の陶芸。国も違えば文化も違うオーストラリアの陶芸も元をたどれば日本の陶芸に共通するものがあります。
そこで、今号特集では『知る・作る・楽しむ パースで陶芸』と題し、“パースの陶芸家”や“パースでの生活に陶芸を取り入れている日本人”、“パースの陶芸教室、陶芸の基本”についてご紹介します。
ぜひ、この機会に陶芸を学び、パースでの生活を豊かにしてみてはいかがでしょうか?
日本とオーストラリアの陶芸文化の違い
日本とオーストラリア、両国間の陶芸文化の違いについて陶芸家で、パースで最も歴史ある陶芸コミュニティ「Perth Studio Potters」の会長でもあるVictoria Maloneさんにお話を伺いました。
陶芸をもっと知ってほしい
パースにおける陶芸の認知度を更に高めたいと望むVictoriaさん。
パースエクスプレス
陶芸を始めたきっかけを含め、今までの経歴を教えてください。
ヴィクトリアさん
「幼い時から何かを創作することが大好きで、20代の時に専門学校で美術を勉強していました。そこで年に一度の生徒たちによるエキシビジョンで、私は陶芸の分野で参加することになり、そこで初めて陶芸をやったのをきっかけに陶芸へのめり込むようになりました。卒業した後は食器などのデザインをする仕事を経て、約8年前に現在私が会長を務める「Perth Studio Potters」に講師として戻り、約3年間生徒たちに陶芸を教えた後、陶芸に専念するため講師は辞め、今は主に自分の個展に出展する作品を作っています」
パースエクスプレス
陶芸の中でも主にどのような作品を作っていますか?
ヴィクトリアさん
「私は、主に作品の表面にクリスタル模様を描く技法を使った作品を作っています。Crystalline Grazeとは、釉薬(ゆうやく※1)と呼ばれる作品表面にガラス質の層を作る薬品の一種のことを指します。その釉薬を塗り、焼成(しょうせい※2)と呼ばれる作品を焼き上げる工程を行うことで、作品の表面にクリスタル模様を浮かび上がらせることができます。私は自分の好きな模様を描くために、自ら釉薬の原料を配合し独自の釉薬を作り上げました。西豪州でCrystalline Grazeを使い、作品を作る陶芸家は私だけだと聞いています」
パースエクスプレス
自身が作品を作る上でこだわっていることはありますか?
ヴィクトリアさん
「こだわっていることは、いつも好奇心をなくさずに成長し続けることを止めないことですね。そして、自分の作品を見てもらうために、定期的に個展を開催することも重視しています」
パースエクスプレス
陶芸の面白いところはどんなところですか?
ヴィクトリアさん
「土を練る作業からはじめ、焼成し自分の作った作品を窯の中から取り出すときはとても楽しみです。自分の予想もしなかった色が作品に浮き出たり、焼成方法によっても作品に違いが出るのでとても面白いです」
パースエクスプレス
陶芸の難しいところはどんなところですか?
ヴィクトリアさん
「難しいと感じるところは、陶芸をやるための材料をベストな状態に保つことですね。自然環境によって材料となる粘土の状態や乾燥具合なども変わり、季節によっても陶芸に適した季節や適してない季節があります」
パースエクスプレス
日本の陶芸文化についてどう思いますか?
ヴィクトリアさん
「私は、日本の陶芸文化を知るために日本を訪れたことがありますが、日本の陶芸文化は古くから歴史があり、他の国とは違う、成熟された上での美しい独自のスタイルをもっている陶芸文化だと思います。日本の陶芸教室を訪れた際に、陶芸を体験する彼らがたとえ陶芸経験がなくとも日本人のDNAなのかは分かりませんが、日本独自の陶芸のスタイルで作品を作っていたのには驚かされました」
パースエクスプレス
日本とオーストラリアの陶芸文化の違いを教えてください。
ヴィクトリアさん
「日本では、陶芸によって作られた作品は主に食文化で生活に取り込まれ、食器などとして使用されていると思います。日本の食はとても創作的で、古くから食材に合う食器を選ぶ習慣があったからでしょう。オーストラリアでは、陶芸は主に鑑賞したりと芸術として取り込まれていると思います。日本の陶芸文化は何世紀にも渡り独自のスタイルを変えずに、陶芸は芸術でありながらも生活に取り込まれてきたものですが、オーストラリアは常に新しい陶芸の道を見つけ出しスタイルを変えてきていると思います」
パースエクスプレス
ご自身が会長を務める「Perth Studio Potters」の活動内容を教えて下さい。
ヴィクトリアさん
「Perth Studio Pottersでは、主にメンバーの方たちに道具や窯などの設備を提供する、歴史あるパースの陶芸コミュニティです。また陶芸教室も開催しており、パースで陶芸を始めたいと思っている方の手助けをしています。併設されているギャラリーではPerth Studio Pottersメンバー方々の作品が展示されています」
パースエクスプレス
ご自身にとって陶芸とはなんですか?
ヴィクトリアさん
「何もない状態から物を作り出すこと。何もない状態から美しさを作り出すこと。それは、私にとっての純粋な喜びですね。陶芸をやっている間は全てを忘れ集中でき、私にとっての瞑想のようなものです」
パースエクスプレス
パースエクスプレス読者に一言、お願いします。
ヴィクトリアさん
「5歳の子どもでも80歳の老人でも誰でも始められ、陶芸を始めたらそこには限界がありません。陶芸を通してたくさんのことを知り、人と出会い、皆さんの生活がより豊かなものになると思います」
【※1 釉薬(ゆうやく):陶芸に使用する薬品の一種で、作品の表面に塗り、焼き上げることでガラス質の層が作られるほか、模様などをつけることができる。】
【※2 焼成(しょうせい):作品を窯で焼き上げる工程のことを指す。】
器をつくる
陶芸家でありながら「Perth Studio Potters」の会長でもあるVictoriaさんに、実際にどのように器を作るのかを自身のスタジオにて、土練りから素焼きまでの工程を見学させてもらいました。
1. 土練り/ 力を入れながら粘土の中の空気を抜くように練る。
2. 中心を探す/ ろくろの上に練った粘土を載せ、成型に入る前に粘土の中心を探す。
3. 成型1/ 粘土の中心を探し終え、ろくろに安定させたら成型の段階へと入る。
4. 成型2/ わずかな力加減で形が変わってしまうため、成型の作業は慎重さが必要。
5. 成型3/ ヘラを使い、器の内側を滑らかにする。
6. 模様をつける/ 作品の淵などをアレンジし、好みで模様をつける。
7. 台から切り離す/ 糸を使いろくろ台から作品を切り離し、完全に乾燥させる。
8. 焼成/ 自身のスタジオには電気窯とガス窯があり、窯によって作品の雰囲気なども変わってくる。
9. 完成作品/ 素焼き後に釉薬などをつけ、本焼成などの工程を踏んだ後に作品ができあがる。今回は素焼きまでの工程を紹介させてもらったが、ひとつの作品ができあがるまで最低1ヶ月はかかるという。
パースで陶芸を広めるVictoria Maloneさんに日本とオーストラリア、両国間の陶芸文化の違いについてお話を伺えました。
パースとパース近郊のまちの陶芸教室
「陶芸を始めようと思っても、どこで陶芸教室が開催されているか分からない」。ここでは、そんな悩みに答えるべくパースとその近郊にある陶芸コミュニティおよび陶芸教室を紹介します。 各所へのお問い合わせは、電話またはメールで。
“パース近郊のまちの陶芸教室”の詳細を見る
取材協力・情報提供:Busselton Pottery Group/Fremantle Arts Centre/Guildford Village Potters/Naomi Sugihara/Perth Pottery and Sculpture Classes/Perth Studio Potters/The South of the River Potters Club(alphabetical order)
情報参照元:公益社団法人日本セラミックス協会 日本のやきもの (www.ceramic.or.jp/museum/yakimono)
Victoria Malone - ヴィクトリア マローン さん
陶芸家 / Perth Studio Potters 会長。パースの陶芸コミュニティ「Perth Studio Potters」も主宰する。西オーストラリア州唯一のCrystalline Grazeを使い作品を作る陶芸家でもあり、日々自身の個展に向けて作品を作っている。