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【特集-11月号】陶芸を通して生活をより豊かに


 

【特集】 知る・作る・楽しむ パースで陶芸 Ceramic Art in Perth

 
月刊誌『パースエクスプレス』では毎月特集を企画し、紹介しています。ここでは、11月号特集で掲載したパースでの陶芸についてお届けします。
 
古くから日本では、食文化と共に発展を遂げてきた独自のスタイルをもつ、陶芸。そして、世界の陶芸史に多大な影響を与えてきた日本の陶芸。国も違えば文化も違うオーストラリアの陶芸も元をたどれば日本の陶芸に共通するものがあります。
 
そこで、今号特集では『知る・作る・楽しむ パースで陶芸』と題し、“パースの陶芸家”や“パースでの生活に陶芸を取り入れている日本人”、“パースの陶芸教室、陶芸の基本”についてご紹介します。ぜひ、この機会に陶芸を学び、パースでの生活を豊かにしてみてはいかがでしょうか?
 

 
パースで陶芸に携わる3人目は、パースで陶芸を学び、パースライフを楽しむ杉原奈緒美さんです。
 

陶芸を通して生活をより豊かに

良質な和食器を簡単に手に取ることのできないパース。ささいなきっかけからパースで陶芸を学び、またもの作りを通じてパースライフを楽しむ杉原奈緒美さんにお話を伺いました。
 

 
 
パースエクスプレス
パースで陶芸を始めたきっかけを教えてください。
 
杉原さん
「オーストラリアでは、日本のように良質な和食器を手頃な価格で購入することはできないので、自分で作れたらいいなと思い、Cottesloeにある『Perth Studio Potters』に陶芸を学びに通いだしたのがきっかけですね」
 
 
パースエクスプレス
陶芸のどんな所に魅せられたのですか?
 
杉原さん
「陶芸の良いところは、良い意味で終わりのないところですね。失敗するたびに、次はこうしようと学びます。やればやるほど陶芸の奥深さに引き込まれていき、終わりがないので制作への意欲が薄れることはないですね」
 
 
パースエクスプレス
陶芸の中でも、主にどのような作品を作りますか?
 
杉原さん
「私は、スカルプチャーなどの芸術としての陶芸というよりは、生活に根ざした器などの実用的なもの、日常生活に使えるものを作っています。器が食と共にいつもあり、日本人としていつもそばにそれらがあったので、馴染み深いものとして作っています」
 

▲ 器の色味は粘土の性質もあるが、ほとんどは釉薬によるもの。つけ方も多様で、一部につけたり、全体につけたりと作品の雰囲気がつけ方によって変わる。

 
 
パースエクスプレス
ご自身の作品を作る際にこだわっていることはなんですか?
 
杉原さん
「こだわりというものはまだなく、自分の好きなものを作っています。また、湯のみであれば形はもちろん、持ったときの感触であったり、口あたりなどの実際に使ったときの心地よさも目指して作っています。あとは、何か面白さを加えることも心がけています」
 
 
パースエクスプレス
陶芸の面白いところはどんなところですか?
 
杉原さん
「本焼成(一度焼成した後に釉薬をつけ焼成する本番の焼成)が終わり、窯をあける瞬間がとても楽しみです。釉薬がどういう風に発色しているか、自分の作りたいような作品にできあがっているかを見て、またそれが望んでいるものになっているととても嬉しいです。逆に失敗したときは何で失敗したのかを考え、次に繋げることも楽しみのひとつですね」
 
 
パースエクスプレス
陶芸の難しい部分はどんなところですか?
 
杉原さん
「ひとつの作品ができるまでには、土練りから始まって、たくさんの工程があります。一つ一つの工程が合わさり最終的に作品となるので、全ての工程が重要です。窯から作品を取り出したときに、例えば同じ白色でも、クリーム色っぽい白が良かったかな?などといった感じで、毎回試行錯誤しています。なかなか思い通りにいかない時もあり、そこが難しいですね」
 

▲ Cottesloeの陶芸教室にて、初めて作ったという杉原さんの初作品。今まで作った作品は500点以上。

 
 
パースエクスプレス
日本とオーストラリアの陶芸文化の違いについてどのように思いますか?
 
杉原さん
「日本の陶芸の歴史は縄文時代から始まりましたが、実はオーストラリアの陶芸の歴史は1850年代からとまだまだ歴史が浅いです。また、日本は独自の陶芸文化を受け継いでいるのに対し、オーストラリアは多国籍国家なので、良い意味で様々な国の要素が陶芸に溶け込んでいると思います」
 

▲ 高台といわれる器の台を作る作業。削った後に出た粘土も再利用し、なるべく無駄を出さないようにする。

 
 
パースエクスプレス
パースで陶芸をする良さはなんですか?
 
杉原さん
「日本であれば良質のものを安価で、すぐ買うことができます。しかし、パースでは日本のものを簡単には手に取ることができないので、欲しかったら自分で何とかするしかありません。パースで陶芸をすることで、ないものを嘆くのではなくて、自分で作ることの楽しみが知れるのではないかなと思います。また、自分で作った食器であれば思入れができ、ものを大切にすることができると思います」
 

▲ 左は酸化焼成(焼成する際に窯の中に酸素を十分に供給し作品を焼成する方法)、右は還元焼成(焼成する際に窯の中の酸素を不十分にし作品を焼成する方法)で焼成された作品。同じ粘土を使っていても、焼成方法によって違いが出てくる。

 
 
パースエクスプレス
陶芸は経験がない方でも始めやすいと思いますか?
 
杉原さん
「私自身、和食器を自分で作れたらいいなと思い経験がなくも陶芸を始めました。陶芸をしている方はそれぞれ自分の個性を生かした様々な作品を作っていて、正解や不正解がないのでとても始めやすいと思います」
 

▲ 以前日本に一時帰国し、備前焼の陶芸家の下で、一時働いた際に作ったという自身の備前焼の作品。

 
 
パースエクスプレス
これからの陶芸に対する目標などはありますか?
 
杉原さん
「今は、釉薬についての勉強をしたりと少しずつですが、陶芸に使う材料についても学んでいます。主に器を作っていますが、安全な材料を使用し、安心して使用できる器作りを目指しています。そして、もっと陶芸について勉強し、自分の作りたい作品を作れるようになりたいですね」
 

▲ 「陶芸についても知識が増えてきた今では、釉薬についての勉強をしているいる」と杉原さん。同じ釉薬でも、粘土によって発色が変わるそう。

 
 
パースエクスプレス
ご自身にとって陶芸とはなんですか?
 
杉原さん
「一言で言うと、癒しと刺激ですね。陶器の原料でもある土を触っているとほっと安心できます。また、陶芸を通して今まで知らなかったことを知ることをでき、陶芸をやる方たちと出会え、友達になれることもとても刺激的ですね。私にとって陶芸は、ライフスタイルの一部になっています」
 

▲ ローカルの自家焙煎カフェで使用、販売している湯呑みスタイルのコーヒーカップ。

 
 
パースエクスプレス
陶芸について読者の方々に一言、お願いします。
 
杉原さん
「陶芸は、いろいろな工程がありとても奥深いものですが、決して難しいものではないと思います。何か始めようかなっと思っている方、もの作りが好きな方にとって、些細な動機でも大丈夫です。ぜひ、陶芸に触れてみてはいかがでしょうか」
 

▲ 自身の作った作品を含め、好きな陶芸家の方のお気に入りの作品たち。和食器独特な温かみが好きと言う杉原さん。

 
 
パースでの生活に陶芸を取り込む杉原奈緒美さんに、陶芸を通して物作りをする楽しさについてお話を伺えました。
 
 

 
 
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パースとパース近郊のまちの陶芸教室

「陶芸を始めようと思っても、どこで陶芸教室が開催されているか分からない」。ここでは、そんな悩みに答えるべくパースとその近郊にある陶芸コミュニティおよび陶芸教室を紹介します。 各所へのお問い合わせは、電話またはメールで。
 
“パース近郊のまちの陶芸教室”の詳細を見る
 


 

取材協力・情報提供:Busselton Pottery Group/Fremantle Arts Centre/Guildford Village Potters/Naomi Sugihara/Perth Pottery and Sculpture Classes/Perth Studio Potters/The South of the River Potters Club(alphabetical order)
情報参照元:公益社団法人日本セラミックス協会 日本のやきもの (www.ceramic.or.jp/museum/yakimono)

 

杉原 奈緒美 さん - Naomi Sugihara

杉原 奈緒美 さん - Naomi Sugihara

パースで陶芸品を作る日本人。閑静な住宅街にある家の一室を陶芸室にして、創作活動を行う。またカフェで働きながら、姉妹店の自家焙煎カフェに自身の作ったコーヒーカップを卸したり、作品なども販売している。

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