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【パースエクスプレス・マガジン】第59回「AリーグとJリーグの外国人枠(その2)」

本誌先月号(vol.256/第58回)では、オーストラリアのAリーグと日本のJリーグの外国人枠には、それぞれどこの国からの選手がどれだけ来ていて、その特徴などを紹介しました。
 
さて、今回はその外国人枠の両リーグの規定やどのようにその外国人枠を今後活用していくべきなのか考えてみようと思います。
 
まずは、両リーグの現在の外国人枠の規定についてですが、Aリーグは各クラブが保有できる外国人選手の上限を5人(ニュージーランド国籍選手は除く)とし、“ゲストプレーヤー”とよばれる短期補強選手を1人まで許しています。一方、Jリーグは保有できる外国人枠は無制限で、試合出場枠は5人。Jリーグ提携国(タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、マレーシア、カタールの8カ国)の選手は外国人扱いをされません。
 
以上が規定となりますが、そもそも外国人枠については、先例として長い歴史を重ねてきた本場欧州メジャーリーグにて、かつて鎖国体制を敷いている国がほとんどでした。自国リーグの選手は自国籍選手たちでまかない、選手達の行き来は国内クラブ間のみで行われ、外国人枠という概念がなかった時代がありました(唯一イングランドだけは英国四協会選手が行き来をしていましたね)。しかし、20世紀終盤、W杯が電波を通じて世界各国へ配信され、サッカーのスーパースターたちの競演をどこの国でもオンタイムで観ることができるようになり、特に欧州の先人達はこぞって世界のスター選手を呼び寄せることになったのです。
 
特に1980年代、鎖国体制を解いたイタリアでは外国人枠は「2」でした。パトロンのにおいをプンプンさせているオーナー達は各国のエースを自クラブへ呼び寄せ、世界最強リーグの所以たる陣容を誇っていくことになるのです。1986年には外国人枠が「3」になり、前述の傾向はより顕著になっていきます。金満オーナーが次々と大枚をはたいてスター選手を獲得し、“移籍市場”なる言葉がニュースになるようになり、イタリアの「セリアA」は世界最強リーグの実績を誇れるようになるのです。が、その後訪れることになるサッカーのスポーツビジネス化の波に乗り遅れ、現在のイタリアリーグの状況は皆さんご存じの通りです。
 
その後、EUという国境を取り除くことになる枠組みは、サッカー選手の国籍という概念自体を希薄にし、クラブによってはスタメンが自国籍選手が一人もいない状況を生み出しました。この傾向は今も続いており、現在、世界最強リーグとされているイングランドの「プレミアリーグ」、もしくはスペインの「リガ・エスパニョーラ」などの欧州各国リーグは、逆に“自国籍選手枠”を設けて対応しています。
 
さて、筆者は外国人枠についてメリットとデメリットを度々、本誌でも問うてきました。現在、外国人枠自体が存在しない欧州メジャーリーグは、自国のみならず世界のサッカーファンが夢中になる存在になり、益々お金が集まるようになったといえるでしょう。しかし、もしお金のサイクルがどこかで破綻したらどうなるのか?破綻した場合、外国人を獲得するために支払う移籍金が100億円を超え、週給を5,000万円稼ぐ選手がいても驚かなくなったこの時代にその歯車が狂えば、サッカー界全体が破綻しかねないでしょう。
 
それでは、この“外国人枠”についてAリーグとJリーグは今後どのようになれば良いのか?ここで恒例の問題です。
 


Q  AリーグとJリーグの外国人枠は今後、「規制」もしくは「解放」のどちらの方向に進むべきと考えられますか?


A  筆者は、「規制」するべきだと思っています。

 

現在、AFC(アジアサッカー連盟)管轄で行われているACL(AFCチャンピオンズリーグ)では外国人枠について「外国人枠4+アジア枠1」としており、各国リーグもそれを奨励するように呼びかけています。アジア各国のプロリーグを抱える国はこれに追随しつつあります。アジアの中でJリーグのみが外国人枠について解放的な姿勢ですが、欧州メジャークラブほどの経済地盤をもたない一地方都市のクラブが、コストがかかる外国人を無制限に迎え入れることは到底不可能であり、抱える陣容について各クラブ間の不均衡が起こりつつあります。また、W杯での実績がまだまだリーグの隆盛を支えている両国にとっては、A代表の強化が自国リーグで行いにくくなる状況は避けねばなりません。つまりは外国人枠を無制限に開放するのは、まだ時期尚早ではないかと考えられます。
 
A代表人気がリーグ運営にまだまだ影響力をもっている両国にとっては、外国人獲得の動機が「パトロン的発想」や「世界に名だたるビッグクラブへの昇華」に直結しないのであれば、自国リーグは代表にて活躍できる選手の育成の場としての役割を全うし、リーグ運営者が「自国籍選手枠」を設け、Aリーグは導入済みである若手育成のための「年齢制限枠」も今後必要ではないかと考えています。ただ、欧州の物真似では警告した破綻する危険性もあると前記しましたが、時には大胆な冒険もしてほしいといった矛盾した希望も持っている筆者でした(汗)。


【筆者:junchang】2010年よりサッカーについての独自の見解を自身のブログ「junchang & the MFF」に掲載。1日2万ページビューを記録することもあり、記事がlivedoor系サッカーサイト「SOCCER JOURNAL(サッカージャーナル ※現在閉鎖中)」に転載されたこともある。 ブログ:http://blog.livedoor.jp/junchang512/

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