11月19日(土曜日)、オーストラリア・シドニーのAussie
Stadiumにて、23ポイントでリーグトップを走るシドニーFC対、20ポイントで3位のパース・グローリーFCの試合が行われた。もちろん、この試合の大きな意味は、日本人としてオーストラリアサッカー界のパイオニア、石田博行(以後、石田と略称)と日本のサッカー界のパイオニアである三浦知良(以後、カズと略称)との日本人対決だった。
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午後7時20分、記者席にスターティングメンバー表が配られる。背番号21番、シドニーFCのカズは先発で登録されていた。日本人ファンのカメラのフラッシュを燦燦と浴びながらウォーミングアップを行う、カズ。そして、その姿が巨大スクリーンに映し出されていた。一方、右足首の故障が完治していない石田は、ベンチスタート。ウォーミングアップも、ゴールキーパーの練習相手にボールを蹴っている。つま先を立てながら右足首を回す石田。7時50分、両チームともウォーミングアップを終え、ドレッシングルームに引き上げた。
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8時ちょうど、選手が入場する通用口に日本人カメラマンが殺到する。普通のAリーグの試合ではありえない光景だった。審判を先頭に選手が入場。石田は黄色いビブスを着て、13番目の入場。カズは、先発メンバーの最後尾、11番目で入場する。シドニーFCのスターティングポジションは、2トップの右にカズ、左にペトロフスキー(背番号11、
Sasho Petrovski)。4−4−2の布陣である。グローリーも同様に4−4−2のフォーメーションだった。
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予定より5分遅れて、パース・グローリーFCのキックオフで試合は始まった。カズにはグローリーのディフェンダー、ホースリー(背番号2、Matthew
Horsley)がマークにつく。始まって、1分30秒。胸でトラップし、キャプテンのコリカ(背番号10、Steve Corica)にバックパスをしたのが、カズのこの試合のファーストタッチだった。FOXテレビでは「日本サッカー界の先駆者、三浦知良。日本ではカズと呼ばれてる」と紹介された。
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そして開始2分。スローインからゴール前に放り込まれたボールが、カズの頭上に。瞬時の判断でオーバーヘッドキックを試みるが、クリーンヒットせず、ディフェンダーにクリアされた。
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最初の見せ場は、開始10分。コリカから相手ディフェンダーの背後に出されたパスに反応するカズ。流れたボールをゴールに蹴り込むが、体一つ分出ていたため、オフサイドの判定。一瞬、場内が沸いたが、Aリーグ日本人初得点はお預けとなった。
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13分、15分に決定的なゴールチャンスをつかんだパース・グローリーFCのペースで、試合は進められていった。その中でも、カズのポジショニングやボールタッチは光るものが合った。17分には、ゴールに向かう縦パスにディフェンダーの前へ体を入れながらボールをキープ、ペトロフスキーにパス。経験を生かした体の使い方は、マークをしていたホースリーもなす術が無かった。
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21分、パース・グローリーFCのベンチ裏では、石田がアップを開始する。その後も、試合はパース・グローリーFCのペースで進められるが、前半ロスタイムの47分、前線に大きく出されたボールを右コーナーキック付近でカズがボールをキープした。止まった状態ではあったが、ボールを2、3回左足でまたぐ。伝家の宝刀“またぎフェイント”が披露された瞬間だった。そして、前半終了のホイッスル。0−0で後半を迎える。
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ハーフタイムを終え、グラウンドでは後半開始のため両チームの選手が自分のポジションに散る。そして、一番最後に姿を現したカズ。前半で交代かと思っていた日本人の観客から大きな声援を受ける。後半開始のホイッスルの後、カズが一番最初にボールに触れた。
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シドニー広報担当者から、今日の試合の観客数が16242人と発表される。この数字は、石田とカズの対決を反映した数字なのかどうかは定かではないが、11月13日に行われたシドニーFC対クイーンズランド・ローアーFC戦での13030人より約3000人も上回る数字である。クイーンズランド・ローアーFC戦の時もカズの豪州第1戦目ということもあり、カズ効果で通常より3000人多い集客とメディアで報道されていたが、今回の16242人は更に約3000人多い。石田&カズの効果は、否定できないだろう。
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後半が始って14分、W杯予選から帰ってきたばかりのシドニーFCのヨーク(背番号19、Dwight
Yorke)がピッチに立つ。観客は総立ちで彼を迎える。後半25分、29分と中盤の位置まで下がってきたカズとパスを交す。 |
手元の時計で後半32分、カズはルダン(背番号4、Mark Rudan)と交代する。前後半通して77分のプレーだった。ベンチに下がるカズはコーチや控え選手達とハイタッチを交わし、一番端のベンチにゆっくりと腰を下ろした。
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試合は均衡状態。パース・グローリーFCの選手が攻め疲れたのか、足が止まり始めた37分、石田がセレスキー(背番号15、Billy
Celeski)に代わって定位置の右ウィングのポジションに入る。テレビの解説者は「怪我から戻った石田がセレスキーと交代。清水エスパルスでプレーしていた石田と読売ヴェルディでプレーしていたカズとは、7年ぶりの再会になる」と紹介した。
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38分、石田の最初のボールタッチは、ワード(背番号8、Nick
Ward)からのパスだった。その1分後、中盤の位置にいたデスポトスキー(背番号10、Bobby Despotovski)から石田にパス。しかし、ディフェンダー2人にサイドライン際で囲まれ、ボールを奪われてしまう。続けて41分、見方ディフェンダーがカットしたボールを受け、前にドリブルで上がる。42分も左サイドのコイン(背番号14、Jamie
Coyne)から上げられたセンタリングが、ゴール前に詰めていた石田のところに。しかし、タイミングが合わず、ボールは石田の背後にこぼれた。
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43分には、ヨークへのパスに反応し、スペースを消した石田のポジショニングによって、味方選手がヨークのボールをカット。44分は、足元に来たボールをトラップし、ライン際で反転しながらドリブルを試みようとするが、いつものキレはなくラインを割ってしまう。
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ロスタイム3分が表示された後、石田が縦にドリブル突破を図ろうとした時、相手ミッドフィルダーのビングリー(背番号8、Matthew
Bingley)が横からスライディングタックルを仕掛ける。石田は大きく転倒。テレビでは、ビングリーの足が完璧に石田の足首を捉えている映像が流される。フリーキックの判定となるが、痛めている足には影響がなさそうだった。そして、最後の攻撃のきっかけを求め、パース・グローリーFCは石田にボールを集めるが、なかなか縦への突破は成功せず、終了のホイッスルが鳴らされた。試合は0対0。両選手がセンターサークル付近で握手を交わす。石田もカズと胸を合わせ、握手を交わした。スタンドには、ファンによって書かれた石田とカズへの応援サインがナイター照明の中で浮き上がった。
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