ビルマ政府軍の動きや戦闘の状況。飽きるほど、幾度となく聞かされたビルマ民族とカレン民族の確執の歴史も再度、聞かされる。さらに、司令官の個人的なことにまで話が及んだ。首都ラングーンの出身。ラングーン大学で哲学を専攻し、卒業後は学校で教えていたエリートだった。それが今は、戦闘の最前線で指揮をとるゲリラの司令官である。
「日本の大学では、どんな勉強したんだ。どんな教科書を使っていた。」
しきりに学校のことや授業のカリュキュラムのことを聞いてきた。
「本当は好きな文学や哲学書を読みたいんだがなあ。今の状況はそれを許さないからなあ。そう、できればベトナム戦争のジャングル戦のことを書いた『ケサンの闘い』を手に入れてくれないか」彼は、自分の思いとは違う書物の名を挙げた。それが現実だった。
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しかし、彼は戦闘の司令官だけではなかった。毎夜、あどけない面影が残る少年兵たちにカレン文字の聖書を使って、読み書きを教えている。カレン文化(文字)の継承のためだそうだ。カレン人なのに、ビルマ語しか知らないなんて、そんなことは許されない、との思いからだそうだ。
「いつか、この戦闘が止んだとき、この子たちはどうなるのか。かれらの行く末を案じないわけにはいかない。人を殺すための技術ではなく、こうやって、将来役に立つ読み書きを教えてやりたい。」
司令官による読み書きの練習が終わった後、ロウソクの灯りのもと、聖書の文字を追う少年兵の顔が輝いていた。ろうそくの芯が燃える音が聞こえそうなほど静かな夜。ページをめくる音がシャ、シャと聞こえてくる。ごろんと横になって、その姿を眺める。胸が熱くなる。
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