「広告商品を手にしたアルキメデス」

 つまりは、亀とアルキメデスだけを中心に世界を組み立てているから、こう考えてしまうのであろう。ところが実生活は、この両者を取り巻く外の世界こそが中心に存在しているはず。アルキメデスは、「亀だけ」を目標に生活しているのではない(歩いているのではない)、彼は何か違う目的のために歩いているのだから、その目的をはっきりさせれば、ほんの一歩で亀を追い越すことができる。
 このことを忘れると、ゴールのない迷路に迷い込んでしまうことになる。だが、問題は、毎日の生活が忙しいあまり、この亀の向こうにあるはずの外の世界を見落としがちになる。自己中心になる。悩むだけで考えなくなるのだ。
 ふと考える。どうしてこのような錯覚に陥いるのか。忙しい毎日や、日々の変化の早さの異常さは、いったい何なのだ、と。不思議を通り越して恐怖さえ感じる。

 その原因の一つは、人間の欲望を際限なく刺激する超資本主義が国境を越えて跋扈(ばっこ)し始めているからであろう。それは人間の感覚を狂わす広告戦略に端的に表れている。

 「広告は、世界中のお金のない恋する乙女たちや夢見る秘書たちにオードトワレを売りつけようと、人気モデルを起用して何万フランも浪費している。到達不能な豪奢な夢へと彼女たちを強引に勧誘する。広告が売っているのは、商品でもコンセプトでもなく、まやかしで人を陶酔させる幸福のモデルなのだ。<中略>できるだけ頻繁に、衣装戸棚や家具、テレビ、・・・あらゆる日用品を新品に取り替えなければならない豪華な生活モデルを見せて、大衆を誘惑しなければならない。」(オリビエーロ・トスカーニ『広告は私たちに微笑みかける死体』)

 

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