そのグアテマラに滞在中、友人でもある足立氏の頼みで、現地発のメッセージを日本に送った。彼自身は、中米コスタリカの専門家でもある。何を思ったのか彼は、この夏の参議院選挙に立候補するというではないか。私が送ったのは、彼に向けての応援メッセージである。31歳という若さである彼も、彼自身の「オン・ザ・ロード」を目指しているらしい。エルサルバドルでも、日本でも、本格的に政治を目指す人がいる。
5月15日(土)の昼過ぎ、5年ぶりに首都グアテマラシティにやって来た。雨期の始まりであろうか、午後3時頃、分厚い灰色の雲が空を覆い、雷を伴う雨が降り始める。雨粒というより、石畳の地面に水玉模様の跡を残す、大粒の水滴が落ちてきた。
大聖堂前の中央公園で話をしていた石川さんと私は、そんな雨から逃れるように近くの米国系ファーストフード店に入った。石川さんは、このグアテマラに住んで約12年、現地のNGOに深く関わっている人である。この国特有の味の薄いコーヒーをすすりながら、私は彼女に久しぶりに訪れたグアテマラの感想を話してみた。
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「今回はまだ2週間しか滞在していないけど、なんか、ほっ、とした軽さを感じますね。まあ、TVや新聞で見るかぎり、一般犯罪は相変わらず多いようですけど、この数10年間、生活の中にしみ込んでいた軍への恐怖がなくなったような感じです。間違ってますか?」
石川さんは、だいたいにおいて、同意してくれた。 「確かに。でも、過去の事件で、同じ村に加害者と被害者が一緒に暮らしている状況なので、一見平和に見える村の中にも、実は癒しきれないモノが未だ残っているんですね。それでも、軍への恐怖はなくなった。
それは、そうですね。」
子供の足をつかんで、頭部を岩に叩きつけて殺害する。あるいは、殺した身体の一部を切り取り、口に突っ込み、見せしめのために道路に放置する。軍の暴力を背景にした、そんな目に見える恐怖はなくなった。
それは確かであろう。内戦が終結してよかったことは、毎日の暴力が減ったことだ。しかし、見えなくなったから問題がなくなったわけではない。というか、この国の抱える問題は解決されないまま、忘れ去られようとしている。
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