「『私の敵』が見えてこない」 by 宇田有三 

 政権委譲によって、これまで秘密裏にされてきた軍政権の密約が暴露されるのを恐れているのだろうか。あるいは、一般のビルマ人に国家運営能力がないというのか。彼らにその機会さえ認めさえしようとしない。ビルマの人々を軽く見ているのだろうか。政権委譲によって混乱を迎えたとしても、それはビルマ人の意志なのだ。
 この国で暮らすうち、この国の問題は、多民族問題に名を借りた、人々を支配しようとする社会システムそのものではないのか、と思い始めた。現状維持を続ける限り、利益を得ている人々がいるはずだ。本当の敵は、もっと違うところにあるのでは、と。

 

 だが、現在の社会システムの下、多数派ビルマ人に不当に扱われ、抑圧されてきた少数派の民族側は、やはり目の前のビルマ人を憎んでいる。頭の中では、システムが悪いと分かっていても、そう簡単に割り切れるものではないのが人間だろう。 ビルマ族以外の人は、カレン人だからと虐殺さえされてきた。自民族への誇りを持つ人々とは、感情や信条が強いゆえ、やはり民族問題から離れることはできないでいる。

  ビルマでの暮らしが日々一日と長くなるにつれ、「私の敵が見えて」 こなくなってきた。

   


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