「『私の敵』が見えてこない」 by 宇田有三 

 何が起こっているか。何が問題なのか。自由に語ることのできる雰囲気は全くない。それゆえ、個々人や集団の思いは内に閉じこめられ、鬱屈しているようだ。そのいびつな思いのはけ口は、すぐ目の前の人間に向けられる。多数派から少数派へ、民族・宗教・人種が違う人々に、不満の矛先が向けられる。

 多くのカレン人、チン人、モン人に会った。ほとんどの人はビルマ人が嫌いだと話す。ビルマ人は信用ならない、という。一方、ビルマ人はビルマ人で、「少数者」の民族集団たちのビルマ人に対する思いに気づくことなく、中国人やインド人のことを悪く言う。彼らは金儲けのことばかり考え、我々ビルマ人を支配し、この国を支配しようしていると思っている。また、ビルマ人同士も、分裂しているのかもしれない。

 

 1989年の、いや古くは1962年のクーデター以来、この国を力で支配し続けている軍部は、次のように言い続ける。「135もある多民族国家を旧ユーゴスラビアのようにバラバラするわけにはいかない。軍部が力を抜くと、国が分裂してしまう。多民族国家を統一できるのは、今のところ軍の支配があるからだ」、と。
 現地で活動する日本政府関係者も、同じような理由で現軍政権を擁護していた。それには驚いた。しかしながら、ビルマの国民は、自らの政治的な意思表示を1990年の選挙で明確に示した。総選挙で、NLDは全議席の8割以上を獲得したはずだ。人々は、多くの軍関係者も含めて、軍による政治統治は、「否」、と。そういう民主的な手続きを経た人々との意志を、軍政権の幹部と一部の外国政府は認めようとしない。

   


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