15分も経つと、Tシャツの汗が乾き始めた。目の前に座った中華系のおじさんがジロリとこちらを見ている。太ったそのおじさんの細い眼でさえ怪訝な様子を発している。まあ、外国人をほとんど見かけることのない街の一角だからそんな表情をされるのも仕方ないか。
 ストローをくわえ、ジュースをノドに流し込む。何気なく眼の片隅に人の姿が映った。ちょっと意識を戻すと、それは子を左腕に抱えた母親であることがわかる。彼女は、道路を横切り、なんのためらいもなく、私の座っているテーブルに真っ直ぐやってきた。私の真横に立って、汚れた右手を差し出してきた。
  ほら来た。またか。
  珍しい外国人を眼にして寄ってきたのは一目瞭然だった。他のビルマ人のテーブルに行く様子はまったくない。それには、なぜか釈然としない。

  お金を持っている?外国人は施しをして当然なのか。何の気なしに、母親を見上げる。じっと彼女の眼を見つめる。彼女は、目を反らすことなく私を見返す。2人はただ単に見つめ合うのみ。全く無反応な意識の交換が続く。

  この11年間、出来る限りビルマに足を運んできた。タイ国境を越えて、陸路で入国したのは数限りない。それのみならず、合法的に空路でも5度、首都に入った。この間の大きな変化と言えば、まずは現地通貨チャットの下落だろう。それ以外では、物乞いが目につくようになったことだろうか。特にこの数年間で急増したように感じられる。現地の人や外国人の区別なく、目の前にいる相手に手を差し出す物乞いの老若男女達。もちろん子どもの姿も多い。

   


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