「暑いねー」「本当、暑いねー」「どっからきたの?」「アメリカから来た日本人だよ」「何をしているんだい?」「ぶらりと旅行だよ」「いいね、ところで、何かほかに欲しいものはないかい?」「いいよ、それより、この町で写真を撮りたいんだが、どこかいい所はない?」「それじゃあ、この平和な町の姿を撮って帰っておくれ。戦いの無いこの町の姿を」「・・・」。私は絶句した。
「私たちが誇れるのはそれだけなんだよ。今、私たちが子供達に誇れるのはこの平和だけ。何も無いけど、今までこれが一番欲しかったんだよ。それだけで十分だよ」
おばちゃんは当たり前の顔をして、さりげなく言った。その言葉を聞いて恥ずかしかった。心の底から恥ずかしかった。平和の尊さが違うのだ。おれは薄っぺらな気持ちでここまで来ていた。どかどかと土足で人の心の中に押し入っていたようだ。
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自分は正しいことをしているんだから何をやっても許されるんだという自分の傲慢さを見せつけられたようだ。恥ずかしい。カメラをカバンの中にしまった。
その駄菓子屋を出て、再び町の中を歩き始める。今度はカメラを構えること無く、自分の目で平和なラ・パルマの町を記録していくのだ。少々感傷的になっていた。
ありふれたとはいえ、この町の姿をネガに形を残さないとはプロフェッショナルを自負する者にとって失格かな? 先程の見慣れた路地が違う形となって見えてきた。嘘みたいな話だ。でも本当にそう感じる。誰かに分かって欲しいなあ、この気持ちの変化を。
疲れが全身を襲ってきた。歩き回るのを止め、教会の前の公園で昼寝をすることにした。ゴツゴツしたカメラバッグを枕に、木漏れ日の中、ベンチの上にゴロンと横になった。さわやかな風を頬に受け、いつの間にかぐっすりと寝入ってしまった。
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