快適な環境が自分にとって、創造性を脆弱にするのでは。そう感じている。どうしてだろうか。自ら進んで生活の環境をかえる。そういうことをしていかないと、ついつい思考も行動も固まってくる。惰性が、ついつい自分の取材方法や写真の撮影・創作・発表へと繋がっていく。新しい感覚を身につける。今まで見過ごされていた現実をつかまえるためには、常に感性を研ぎ澄ませておかねばならない。そのうち、怖くなって冒険ができなくなる。
 新しい緊張感を自ら生み出していく、言い換えれば、生みだし「続けて」いくことを自らに課して行かねばならぬ。自分にとってはそれは、旅に出ること、取材に出ることである。それも、できるだけ言葉の通じない所へと。
 すると、いままでどれだけ自分が安穏と生活していたのか分かる。

  思わずのっぴきもならなくなって、狼狽する自分を発見する。それがまた面白い。
 今思うと、当時はそんなことを考えるよりも、まず行動していた。
 
初めての撮影取材のため、中米エルサルバドルに入ったのは1992年。米国の監督オリバー・ストーンの題材「サルバドル」になった舞台だ。東西冷戦の熱い代理戦争になった所でもある。92年は、12年に及ぶ内戦が停戦となったものの、ゲリラ軍と政府軍が、まだ散発的にぶつかり合っていた。私はどこかで、映画で見たような激しい現場を期待していた。
 ある時、エルサルバドルの首都サンサルバドルから北へ向かった。隣国ホンジュラスが近いラ・パルマという国境の町であった。政府側とゲリラ側が初めて和平交渉を行った町である。首都からバスを乗り継いで、約3時間半たらず。

   


This site is developed and maintained by The Perth Express. A.C.N. 058 608 281
Copyright (c) The Perth Express. All Reserved.