「写真修行の日々」−その3−

  冷気が渦巻く暗室でひとり、立ちっぱなしの作業。半年くらい続いただろうか。現像したフィルムからの引き伸ばしは、単調だ。そんな自分を見つめる孤独な作業から、次第にゆっくりと何かが見えてきた。写真を撮り続けること(頭だけで考えるのではなく、実際に体を動かし、被写体に接すること)から、答えがジワジワと印画紙の上に浮かび上がってきた。
  その画像は、ゴミ箱の蔭にしゃがみ込んで隠れん坊遊びをする女の子の後ろ姿であった。鬼の役になったその子は、顔を両手で覆ってうつむき、数を数えていた。その子のイメージを見ているうちに、もっともその子とは直接には関係なかったが、じっくりと自分の意図する映像が浮かんできた。それは、布団をかぶって声を殺して泣いている自分の姿であった。そこから、一気にいろいろな情景が広がった。もう、印画紙に浮かんだ画像は見えていなかった。

 社会に対して、自らの思いを伝えたい、訴えたいんだな、そう気づいた。その思いは、抑え込まれていた怒り、悲しみ、寂しさであった。実際に体験した身体感覚と精神的な思い出が浮かび上がってきた。そうか、そうだったのか、と納得した。
 


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