お父さんの左手は、肩に担いでいた自動小銃を支えていた。息子の手を握っていないお母さんの片手は…。一体、何を持っていたのだろうか。よく覚えていない。4人で、しっかりと大地を踏みしめながら歩を進めていた。その歩みは、速くもなく遅くもない。子どもが必死になって親に追いつこうと歩いているわけでもない。親の方もゆっくりと歩いて、子供たちに歩調を合わしているようにも思えない。まるで完成された映画の一シーンの情景だった。見事だ。もう10年近く前の事だから、想像が想像を重ね、実際にあったこととはかけ離れかけているかも知れない。
 私はその時、彼らの姿に感動してしまい、写真を撮ることができなかった。経験を重ね、場慣れした今なら、走り出して彼らに追いつき、シャッターを切っているだろう。


私が常々気をつけていることの一つに、この仕事を始めた時の「思い」や「こころざし」を忘れるな、というのがある。エルサルバドルで出会ったこの場面も、記憶にとどめ、戒めの一つにしているシーンである(もっともずぼらな私はついつい、その時の気分に流されるのだが・・・)。

   


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