「閉ざされた空間から ─感性に取って代わったもの─」

  車窓の風景は、恐ろしい。のどかな景色は幻想である。 

 20世紀の終わりから新世紀にかけて、カンボジア・タイ・ビルマと約2ヶ月半をかけて回ってきた(私は自分の方法で、人間の創り出した時代を超え、新世紀を迎えていた)。カンボジアでは首都プノンペン、タイ・ビルマはいつも通り、国境を中心にほぼ一箇所に滞在していた。どちらの場所でも主な移動手段は、バイクか徒歩であった。ビルマの山奥、カレン人の住む場所では、隣の村に行くのには半時間から数時間の山道を歩いた。全身汗まみれになり、砂ぼこりを浴び、山から山への距離感を自分自身の身体に埋め込んでいた。

 日本に帰国して電車に乗り、車窓を流れさる景色を見ながら、無事に帰ってきたんだなという感慨にもひたった。今年は、いわゆる日本的な年越しや正月はなかったな、そう思うと、ちょっと寂しくもあり、無ければないでなんとかなる、べつにそれほどのことでもないんだな、とも思った。それだけ自分自身が社会や家庭生活と無縁なのか。それに気づいて、少々驚きもした。

 


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