5分や10分の遅刻はいいだろう。待ち合わせの場所にきちんと現れたなら。私の行く現地取材で、しばらくそんな生活に慣れてしまうと、分刻みの日本の生活が息苦しくなる。もちろん約束を守るのは当然だ。でなければ、私は誰からも信用されなくなり、今のこの社会では生きていけない。それが正論だ。
 でも、その正論、この時、ちょっと変だぞ、と思った。
 この5分や10分という感覚、やっぱり違う。どうしてだろうか。電車の揺れに身を任せて考えてみた。なんで日本は、こんなにセコセコして、焦っているのだろうか。目の間に展開する、流れ行く風景を見ながら、ふと思う。そうか、「日本の社会は忙しい」とか、また、「いわゆる途上国とは時間の流れが違うんだ」と錯覚させられているのだ。しかし、本当は決して忙しくはないのだ。

 本来なら人間は、電車の走るスピードで移動できるはずではないんだ。そのことに慣らされているに過ぎない。そう思うと、ちょっとこわい気がしてきた。暑くもなく、寒くもない車内。空気も調節された空間。揺れも少ないから、本も読めるし、自分だけの世界に没頭することができる。しかしである、動物である人間の体感以上のスピードで移動しているのを全く感じさせてないこのシステム。
 やはり、おかしい。 

   


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