停戦に酔いしれる市民を撮影した自分の様子を当時、私は次のように日記に書いた。
 「焼けつくような太陽の日差しを浴びながら、夢中でシャッターを切っていた。そのうちカメラのファインダーの中が曇り始めた。気温のせいか、あるいは目の前でうごめく群衆の熱気のせいだろうか。FMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線:左翼ゲリラ連合組織)の赤い旗を振り、赤いスカーフをつけた人々。しかし、い つの間にか、自分の目に涙があふれようとしているのに気づいた。泣くまいと瞼に力を入れたが、涙はとまらない。10年近くも流すことのなかった涙で
ファインダーの向こう側が見えなくなりはじめる。胸が張り裂けてしまいそうな熱い空気が肺に充満して息苦しくなる。シャッターが切れなくなりそうになった。気を引き締めて、カメラを握りなおした。『この人々の姿をネガに焼き付けねば』。その想いだけでシャッターを切り続けた」
 今まで数多くの集会を撮影してきたが、これまで私が目にしたのは、怒りや悲しみのメッセージを伝える集会がほとんどであった。しかし、エルサルバドルで私が体験したのは、心から平和を喜ぶ、幸せな人々の集会であった。その強烈な印象は現在も私の中に生き続けている。
   


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