町の美化計画で縮小されたと聞いていたメルカードは、以前と同じように巨大だった。迷路のように入り組んだ狭い路地を進みながら、「成長しているはずのあの子になんて声をかけようか」。私の頭の中はそのことでいっぱいだ。
 結局、最初に口に出た言葉は、「オッス、元気やったか」、だった。アレキサンドラ・フェルナンデス(8歳)とは3年ぶりの再会。その子は私を見て、ちょっと困惑した顔つきになった。しかし、母親のアデリーナ(54歳)さんから、「写真を撮ってくれたチーノ(東洋人)だよ」と言われると、にこっと笑ってくれた。その笑顔で暑さも疲れも吹っ飛んでしまった。
 1992年2月1日、私は12年間続いた内戦終結の現場に立っていた。停戦に湧くエルサルバドルの人々の写真を撮影しにメルカードに入った時、

 
アデリーナさんが、「この子の写真を撮っておくれ」、と赤ん坊を私の目の前に掲げたのだった。それがアレキサンドラだった。それから94年、96年、99年とエルサルバドルを訪問する度に彼の成長と新生エルサルバドルを撮り続けるようになった。
 停戦に酔いしれる市民を撮影した自分の様子を当時、私は次のように日記に書いた。

   


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