「誰もそんなこと言ってないじゃないか。それにだからって、あんな仕事をいつまでも続けていいって訳でもないだろう?」
「大きなお世話だわ。そんなことばっかり考えているから、私のことなんてもうどうでもよくなっちゃって、自分だけ死んでしまおうなんて勝手なことまで考えるようになったんでしょうね。」
「誰がいつ自殺するなんて言ったよ?」
「ばかみたい、昨日顔に書いてあったわよ。」
「もう、よしましょう。」
自分の想像の世界でさえ、2人の間の勝負は歴然としていました。
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水平線の上の空が淡いピンクからグレーに変わり始めたのを潮に、僕は立ち上がるとビーチをあとにしました。
さっき下ってきた坂道を、力なく登り始めながら、それでも僕は立っているのだと思いました。そして立っている以上、ボクサーなら倒されるまで前に進むしかないんだと、自分に繰り返しささやく以外ありませんでした。そのささやきを風の中で見つけたのか、潮騒の中で見つけたのかはわかりませんでした。けれども、前に進むしか脳のない不器用なボクサーは、それを信じて坂道を登り続ける以外、もう選ぶ道がなかったのも確かなのでした。
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