兄貴は、東京の西に流れる多摩川の近くに、暮らしていました。奥さんが出て行ってしまってからは、休みのたびに僕を誘って、川の下流から上流までトライアルのオートバイを走らせるようになりました。
どちらかというと僕の方が運動神経はいいと思うのですが、兄貴は見かけによらず努力家で知らないうちに黙々と練習を積み上げているらしく、何回か一緒に走っているうちに、決まって兄貴の方が上手くなってしまっているのでした。
トライアルというのは、もともとスピードを競うものではなくって、ゆっくりバランスをとりながらできるだけ地面に足をつけないように、自分たちで設定したセクションをクリアしていくスポーツ(たとえば、ドラム缶を越えるとか)でしたから、何事にも腰をすえて取り組む兄貴のような性格の人には合っていたんじゃないかと思います。
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「別に、努力しているわけじゃ無いんだよ。自分で気になってやってみようと思うからできるんであって、人からやれって言われてやるもんじゃないからなあ。」
「兄貴はいいよ。才能があるから。フィルム撮ったり、トライアルやったり、きれいな女の人に囲まれてたり、自然にできちゃってるもんなあ…」
「そいじゃ、MORIOだっていいよな。なんてったって泳げるし、たばこや酒も必要無いしなあ。」
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