翌日、久しぶりに夕日を見に行った僕は、港の近くを歩いていて白墨を拾いました。何気なく拾って眺めているうちに、ひとつのアイディアが浮かんできました。
  僕の目の前の歩道には、たくさんの“ヒビ”がコンクリ−トの表面に走っていました。僕はその裂け目というか、割れ目にちょうどおふくろが生きていた頃、よく夜遅くまで縫い物をしていたときのように、ていねいに縫い目を書いていきました。始めてみると、知らず知らずのうちに夢中になってしまい、歩くそばから次から次にヒビ割れが現れてきて、その都度それを白墨で縫い合わせて行きました。

 気がつくと夕日はすでに港の桟橋の向こうに落ちてしまっていて、一体ここに何しに来たのか分からなくなってしまいましたが、僕はなんだか掃除の他にも好きなことが見つかった喜びで、久しぶりにウキウキした気持ちで時間を過ごすことができたのでした。こんなに何かに夢中に慣れたのは、スタジオ69でMADISONと過ごしたとき以来でした。
  翌日は朝一番に白墨を買いに行って、また、港まで行ってみようと駅まで歩いている途中で、そこここにある歩道の“ヒビ”が目に入ってきました。僕はさっそく駅まで歩きながら、縫い目を入れていきました。

   


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