ついさっきまでの歯を食いしばった航海が嘘のように、その砂浜での僕は優しい気持ちでいっぱいでした。
誰かが、とても懐かしい旋律の歌を繰り返し歌いながら近づいて来るのが分かりました。そして僕はゆっくりと目を開きました。
MADISONの緑色のひとみが静かに僕を見つめているところでした。僕は包むように彼女の背中に腕を回しました。答えるように彼女が唇を重ねてきました。
「MADISON?」
「MADDIEでいいわ。」
「今、何を歌っていたの?」
「アイルランドのフォークソング。」
「アイルランドから来たの?」
「ええ、ずっと前に。いい曲でしょ?」
「なんでだか、すごく懐かしい気持ちになれるんだ。」
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僕はMADISONの口ずさむフォークソングが、どこか悲しげで日本の子守り歌に似ていると思いました。
「アイルランド人は世界中にいるのよ。知ってた?」
「どうして?」
「アイルランド人はね、同じ所に長く居ると足の裏がかゆくなってしまうの。それで、ひと所にはじっとしていられなくって、ついつい旅に出てしまうのよ。」
「それで、その切ない旋律が生まれたんだね。」
「まだ、あなたの名前聞いてなかったわ。」
「僕、MORIOです。」
「MORIO、何か飲む?」
「スパークリングミネラルウォーター」
「オーケー」
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